では、彼らは何を失うのか?

 それは、アップルのDNAである。実は、アップルがアップルである所以そのものを失ってしまう危険性を、この提携は孕んでいる。そう、アップルは「普通の会社」になる危険性を孕んでいるのだ。

アップルにとって提携は追い風か?
確かにIBMには失うものはないが……

 IBMのロメッティCEOは、「これは始まりにすぎない」と語る。すでにIBMは、ヘルスケア、金融、保険、旅行、運輸など、様々な分野におけるiOS向けのビジネスアプリケーションの開発に、100個以上着手しているという。アップルは、これらのアプリケーションがプリインストールされた「iPhone」と「iPad」を法人向けに販売可能となり、念願のB2B進出が盤石となる。

 確かにアップルは、B2B事業の拡大を狙っていた。iPadを各社の営業ツールとしてもっと活用してほしかった。しかし、iPad上で動く業務用アプリには制限があり、法人分野ではアップルが期待するほど伸びなかったのは事実だ。その意味では、アップルにとって、法人向け端末の売上拡大という面ではメリットがあるだろう。

 一方、IBMはどうだろうか。「ThinkPad」などのPC事業をレノボに売却し、ハード事業からは撤退しているので、極端な話、IBMにとってハードは「どこ製」でも良い。しかし、アップルとなると話は別だ。使い勝手もよく、ブランド力のあるアップルのハードをIBMが独占的に扱えるならば、これは強力な武器になる。ハードだけで差別化も可能となる。

 これだけを見れば、B2Bで豊富なビジネス経験を持つIBMと、B2Cの王者と言っても過言ではないアップルの提携は、世紀の大提携と言われるに値する“はず”である。しかし、筆者には一概にそうは思えない。

 ここで、IBMの歴史を少し振り返りたい。

 IBMはもともとハード屋だ。International Business Machineの頭文字をとってIBMと略している。パンチカードによるデータ処理機の開発・販売に始まり、1960年代後半にはメインフレームで圧倒的なシェアを獲得し、コンピューター業界の覇者として君臨していた。

 前述のアップルのCMが放映された1984年頃は、「IBMでダメなら他でもダメだと言えば誰も疑わない」とIT担当者が話すほど、断トツの存在感であった。

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「ハードは儲からない」ソフトに舵を切ったガースナー

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