協奏曲か、はたまた狂想曲か?
IBMとの提携を決めたアップルの成算

 先日発表されたアップルとIBMの提携は、協奏曲となるのか。はたまた、狂想曲となるのか。

 IBMとアップルの提携に関して、アップルのティム・クックCEOはこう語った。

「1984年当時、われわれはライバルだったが、2014年の今、これ以上に互いを補い合える企業は他にないと思う。実に画期的な合意だ」

 ティム・クックが語った「84年当時」 とは、アップルがスーパーボールのハーフタイム中にたった一度だけ流したCMを念頭に置いていると見られる。それは、「ブレードランナー」のリドリー・スコットを監督に起用し、ジョージ・オーウェルの小説「1984」 をモチーフにしている。マッキントッシュのTシャツを着た女性がハンマーを持ちながら登場し、ビッグブラザーから囚人のごとく管理されている一般市民を解放するというストーリーだ。

 最後に、こんなメッセージが流れる。

「1月24日 アップルコンピュータは、マッキントッシュを世に送り出す。あなたは1984年が、あの“1984”のようにはならないことを知るでしょう」

 当時のコンピュータは、「alt + shift + F4 」など難しいコマンドを入力しなければならなかった。専門知識を学んだ一部の人しか使えない代物だった。しかも、高価で大型のものが主流だ。その利便性は、政府や一部の大企業に独占されていた。

 このとき28歳の若さだったスティーブ・ジョブズは、その壁を打ち破りかたかった。まさに、ビッグブルーことIBMが支配する前近代的なコンピュータ業界に殴り込みをかけ、コンピュータを一般市民でも使えるよう、革命を起こそうとした。技術で世界を変えようとしたのだ。その意気込みをCMでセンセーショナルに表現したのである。

 そう、ジョブズは公の電波を使ってIBMにケンカを売ったのだ。そのIBMとアップルが、足もとで手を組もうとしている。

 もしもジョブズがまだCEOであったならば、この提携はあり得たか。むろん、答えは「ノー」だ。アップルは全て自分たちでやらないと気が済まない会社だ。一見するとアップルは水平分業型に見えるが、それは外面だけで、実態は超垂直型の事業モデルなのである。

 では、この提携の勝者は誰か。それはIBMだ。今回の提携において、IBMは得るものが多いが失うものはほとんどない。一方アップルは、短期的には得るものもあるが、長期的にみれば失うものの方が大きい。