ティム・クックは、ジョブズ亡き後、アップルという巨大組織を存続発展させることを必死に考えてきたはずだ。ジョブズの存命中にも、幾度となく意見交換をしたはずだ。その上で、ジョブズ的なやり方ではなく「普通」になるという道を選んだのかもしれない。

 しかし、筆者をはじめ、アップルファンはやはりそこに一抹の不安や寂しさを感じざるを得ない。「普通になる」という思想が背景にあるかもしれない今回の提携を、「脱!ジョブズ宣言」 と言っては過激すぎるだろうか。「アップルを普通の企業にする第一歩」「アップルがアップルでなくなった日」 と言っては、言い過ぎだろうか。

スーパーボールのCMに託された情熱
ジョブズは今回の提携をどう評価する?

 冒頭で触れた「1984」のCMは、スーパーボールの途中に一度だけ放映された。当初、アップル社内では「過激すぎる」と悲観的な声が多かった。しかし、ジョブズは「ポケットマネーでも放映する」と言って譲らなかった。スーパーボール中に放映されるCMの相場は、30秒で3.5億円、60秒で7億円である!

 たった一度だけ、しかも60秒のために7億円もの私財を投じる意味とは、何だったのか。ジョブズは、自分がアップルを去った後のアップルを想像していたのではないか。今のアップルを予見していたのではないか。そう、「1984」のCMは、自分亡き後のアップル幹部と社員への檄文なのではないだろうか。

 ダビデと巨人兵ゴリアテに戦いを挑み勝利したがごとく、アップルがビッグブルーのIBMが支配する旧態依然のコンピュータ業界を破壊して、革命を起こす。そんなジョブズの想い、闘争心、挑戦心を、いつの時代のCEOも、そして社員も忘れてほしくない。そう願い、このCMを放映したのではないだろうか。

 アップルとIBMの提携の成否を、現時点で評価することはできないが、今回は「超高速すり合わせ型モノづくり」を謳う筆者なりの観点から、意見を述べてみた。読者諸氏は、どう感じるだろうか。

 最後に、ジョブズの残したこんなメッセージを紹介して、稿を閉じたい。

 「アップルは技術と人間性の交差点でありたい」 

――スティーブ・ジョブズ

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