わがままで狂信的なジョブズに対して
「普通」になるというクックの成長戦略

 アップルというブランドは、現時点において、この地球上で最も価値あるものではないか。時価総額が世界トップであることを考えれば、実質的に買収は不可能だ。アップル以外の企業がアップルというブランドを借りて事業するには、提携しかない。それは、どこの企業も夢見る姿であろう。

 しかしこれまでアップルは、どの企業とも本格的なタッグを組まなかった。だからこそ、アップルでいられたのだと思う。

 ジョブズはこの提携を天国で支持していないはずだ。なぜなら、提携によってアップルではなくなるからだ。ジョブズは売上や利益の伸長に興味がない。株価や株主の意向など関係ない。ただ、自分が実現したい世界を現実にすること以外に興味はない。言うなれば、単なる自己欲望の実現にしか興味がなかった。

 そう「わがまま」なのである。

 だが、そのわがままが世界を魅了した。そのわがままが実現された世界に皆が酔いしれた。ジョブズは世界を本気で変えようとしていた。技術で世界に革命を起こそうとしていた。

 創業者やカリスマ経営者は、独自の理想図を持っている。その理想図を社員や社会に対してぶち上げ、その実現に向けてグイグイ引っ張っていく。その姿は狂信的でもある。

 彼らが掲げるのは絵や物語であり、数字ではない。数字には夢もロマンもない。だから人は踊らないし、動かないし、走らない。しかし、物語にはドラマがある。刺激がある。エネルギーがある。だからこそ人が魅了され、動く。走る。

 もちろん、ティム・クックCEOの気持ちもわからないではない。ひょっとしたら、「ジョブズの亡霊」にうんざりしているかもしれない。世間はジョブズ的な大ヒット商品が出てくることを期待しているが、ジョブズはもういないのだ。いつまでもそこに期待をしても致し方ない。割り切る必要がある。

 ジョブズ的な手段での成長ではなく、ティム・クック流のやり方で成長を維持させるしかない。なぜなら、今のアップルのCEOはジョブズではなく、ティム・クックなのだから。ビーツの買収やIBMとの提携は、ティム・クック流の成長の姿なのだ。

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あのスーパーボールのCMに託された、ジョブスの「情熱」

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