新しいキャッシュフロー構造が崩壊?
DNAを失うリスクも考えられる提携の意味

 しかし、今回のアップルとIBMの提携は、このアップルの「新しいキュッシュフロー構造」を崩壊させかねない。

 アップルのティム・クックCEOが発した「これ以上に互いを補い合える企業は他にないと思う」という言葉に表れているように、今回の提携は役割分担を明確にしている。モノはアップルが担当、ITとサービスはIBMだ。

 この役割分担は、アップルの「稼ぐプロセス」の放棄を意味する。アップルはもともとモノづくり企業だったが、「価値づくりプロセス」も含めた「市場創出型企業」へ変化していったはずだ。にもかかわらず、今回の提携はハードで稼いだ利益でハードに投資をするモノづくりメーカーに、逆戻りすることになりかねないのだ。

 この程度の課題は、当然アップルとしては想定の範囲内で提携に踏み切っているはずだ。たとえアップル関係者に筆者の疑問を投げかけたところで、「アップルの利益の源泉をIBMに引き渡す代わりに、IBMの法人販売網を得るのだから、それでいい」 というコメントが返ってくるだろう。確かに、苦戦しているB2B販売網を再構築するコストと時間を考えれば、トータルコストは安いだろう。

 また、アップルは法人向けのアプリケーションをつくろうと試みたが、企業としてのDNAが法人向きではなく、苦戦していたことに鑑みれば、「法人向け価値づくりプロセス」での成功を潔く諦め、IBMと組んだことは勇気ある決断という見方もあるかもしれない。

 再び、「しかし」である!

 経営数字などの結果の観点においてはごもっともである。短期的なアップルの収支を考えれば、提携は「イエス」である。しかし、その経営数字を生み出している、企業内プロセスや文化というアップルの本質の観点においては、筆者は強い危機感を感じる。

 今後は、法人事業における最終消費者との接点を放棄することになる。これはアップルとしては初めてのことだ。「価値づくりプロセス」を自社で持ち得ずにモノをつくり続けることは、日本の製造業が価値にフォーカスをあてずに機能やスペックを見て開発してきた状況に近づくことを意味する。

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最終消費者との接点を失い、価値づくりプロセスに変化も

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