ファストファッションの台頭、消費税増税や社会保障負担などによる個人所得の減少、消費構造の変化など、ファッション産業を取り巻く経営環境は年々厳しさを増している。女性向けインナーウェアのリーディングカンパニー、ワコールグループ(以下ワコール)はそうした環境変化を見通し、売場改革やM&A、グローバル化などを加速している。その屋台骨を支えるのがハイブリッドクラウド環境だ。「Oracle DBaaS Summit Osaka ~ インメモリ・データベースが革新するクラウドとビッグデータの未来」では、同社がグループ戦略の強化に向けデータベース統合に踏み切った経緯と、ITシステムの刷新が経営に与えるインパクトが披露された。

百貨店の売り場改革を支える
「前売り」データ分析

 渋谷ヒカリエで東急百貨店が運営する新業態「シンクス」にオープンした「TRUE STORY by Wacoal(トゥルーストーリー by ワコール)」は、客が回遊しながら長居ができるよう、天井に大きなシャンデリアを下げ、店の中央にゆったりくつろげるソファを置いて、従来の下着売り場のイメージを覆す高級ブティックのような豪華な空間を演出した。2012年4月に業界の注目を集めたその演出は、主要ターゲットである「都市型・キャリア層」の女性の心をつかみ、通常の売り場の2倍という「客単価2万円」を達成した。

 ワコールにとって百貨店はグループ売上の3割強を占める主要な販路である。しかし、百貨店の売上は1991年をピークに右肩下がりで推移している。もはや百貨店任せの販売では生き残れないという判断から、ワコールが周辺の顧客分析からレイアウト提案までを手がけ、率先して「売り場改革」を図った結果編み出されたのが、先の演出だった。

 こうした戦略の策定に当たっては、経営層から経営体質強化につながるようなITインフラ刷新の要請が上がっていた。

大西輝昌氏
ワコール 情報システム部
グループ情報システム課 課長

 ワコールは卸業がメインであり、百貨店や量販店に販売した時点で売上を立てるが、売場に端末を設置して最終消費者の手に商品が渡った時点のデータを収集する。これを「前売り」データと呼ぶ。前売りデータに連動して自動発注やPOSシステムを稼働させ、そこで得た情報を分析し、製品開発やマーケティングに活用するのである。つまり前売りデータが、同社の事業戦略の重要な要素となっているわけだ。

 長年にわたってこうしてデータを蓄積しているため、情報系システムは社内で最もデータ量が多く、規模が大きい。ビッグデータ時代を迎え、蓄積されるデータは増える一方で、「POS分析システムの夜間処理が遅くなり、これ以上いかんともしがたい状態まできてしまい、高速化してほしいという社内からの強い要請があった」(ワコール 大西課長)という。

ハイブリッド環境が下支えする
M&Aの加速と海外事業の拡大

 売場改革と同時にワコールが推進してきたのが、M&Aによる低価格かつファッション性の高い市場の拡大である。2008年1月には10代、20代の若年層顧客を中心に、カタログ販売や直営店の展開で急成長を続けてきたピーチ・ジョンを子会社化。さらに翌2009年8月には、大証1部上場でインナーウェアのほか、アウターウェア、手芸用品、レース素材の製造・販売、OEMなどを手がけるルシアンを子会社化した。この買収以前にも通信販売事業、直営店事業、ウエルネス事業にも領域を拡大してきたワコールは、子会社56社および関連会社10社で構成されるグループとなっている。

「買収した時点では、子会社は親会社のシステムとはまったく別のものを使っています。国内外グループ各社の連携を図り、グループ総合力を強化するという経営方針を実現するためにも、そうしたバラバラのシステムを統合する必要があるのですが、既存の環境ではディスク容量に制約がある上、データを長期間保存して分析して有効活用したいという現場の要望に応えられないという課題がありました」(大西課長)

 もう一つ、ワコールが成長戦略の中心として位置付けているのが海外事業の拡大だ。同社は1970年に韓国タイ、台湾に相次いで合弁会社を設立して海外進出を果たし、中国やオーストラリアを含むアジア・オセアニア、米国、欧州へ進出。2012年には英国の下着メーカーで女性用ブランドを世界40ヵ国以上で販売するイヴィデンを子会社化し、現在では世界70ヵ国以上で商品を展開する。事業拠点も20ヵ国にわたり、事業会社は関連会社を含め、50社以上へと拡大している。

 世界のインナーウェア企業の中でも有数の規模だが、現在の海外事業の売上比率はアジア・オセアニアが10.3%、欧米が7.2%と、両市場をあわせても17.5%に過ぎない。企業として成長を維持するためには、子会社化したイヴィデングループとの連携を深め、グローバル戦略に弾みをつけ、同時に、国内事業でも消費開発に関わる工数削減や百貨店チャネルの販売効率化などの収益構造改革を実現する必要がある。