似たような「採用軸」が
過当競争を生む
では、「期待」と「能力」を明確にすれば良い人材が採れるのかというと、そうでもない。
「なぜなら日本企業の面接の現場では社風に合う、といったフィーリングを重視する傾向があるからです。よく『あの子はうちの会社っぽいよね』といった判断が行われていると思います。長期雇用を前提とすれば組織文化に合う、という基準も大切ですが、それが前面に出過ぎては、採用基準を出した意味がありません」
結局、どの企業も同じような採用基準で臨むために競争が激しくなり、採用担当者はできるだけ応募者の母集団を多くしようとする。その結果、100人の採用予定なのにコストを掛けて1万人集め、コストを掛けて9900人落とすような非効率な作業ばかりが発生する。これでは、本来の目的であるはずの「自社にとってふさわしい人材を採る」ことは実現できない。
そこで服部准教授は「他社と違う人材像=採用基準を設定する」ことを提唱している。
例えば新潟のせんべいを主力とする製菓会社の15年卒用予定者採用では、応募者が自分に合った選考スタイルを選べる「カフェテリア採用」を導入した。選考はせんべいに対する愛を存分に語る「おせんべい採用」、新潟に縁がなくても新潟が好きな人を採用する「ニイガタ採用」、学生時代は勉強をしたという「ガリ勉採用」といった五つのコースを設けた。その結果、「この会社で働きたい」という熱意のある優れた人材が集まったという。
「16年卒採用は、採用期間の短縮に加え、景気回復で優秀な学生の獲得競争がますます激しくなり、企業は知恵を絞って独自の採用軸を確立することが必要になるでしょう。これをきっかけに『採用イノベーション』ともいうべき変化が起こることも考えられます」。
そこにいち早く気付いた企業は「二つの曖昧」を解決し、旧来の採用の網に掛からなかった優秀な学生に巡り合える可能性も高まるのではないだろうか。