予算内に収めるため
「切り捨てる」作業

 永江邸の設計は、東京工業大学の塚本研究室(塚本氏は同大大学院准教授)の院生を入れての共同作業となった。

「人生経験が異なる若い人たちとの作業は面白く、いろいろなアイデアが出ました。ただ予算案は当初の見積もりの倍に(笑)。そこを削る作業がしんどかったですね」と永江さん。

 施主の強みは、財布のひもを握っていること。言い換えれば何を捨てて何を残すかという最も重要な判断を、自分で下していかねばならない。永江さんの土地は74.40平方メートル。最初に「広さ」を切り捨て、設計でどこまで「広く住めるか」を追求、素材は「鉄骨1本幾らか」まで詳細に聞き削っていった。

「仕事部屋にする地下室の壁などむき出しで、壁紙も張ってなければ塗装もしていません。完成時にはオープンハウスにしてご近所の方々も招待したのですが、地下室を見て、『ここはこれから造るんだね』と言われたほど。でも、別に誰かに見せるものではないから、加工や装飾は最低限、素材をそのまま使いたいと思ったのです」

東京のガエハウスは地下1階、地上2階建て。キノコの傘のように張り出した屋根の中が2階部分で、ひさしはガラス張り。室内は3層が中央階段で結ばれ、ドアのないオープンな空間となっている。ちなみに永江邸は建築家・塚本氏により、ナガエの姓をもじって「ガエハウス」と名付けられた(画像提供/永江朗)

 永江さんは「家を建てることを思い立ってから3年間は、自分の生活を相対化し、見直す時間だった」と言う。不要だと思われるものを削っていく作業とともに、暮らし方も次第にシンプルになっていく。新居ではテレビを見なくなり、家事を楽しむようになり、夫婦とも、時間がゆったり流れると感じるようになったという。