さて、では蒸留されたばかりのできたての焼酎の味は、さぞかしおいしいのかというと、これがピリピリした刺激がありおいしくありません。油臭やアルデヒド臭もあります。じつはこれ、それぞれの成分がバラバラになっているからなんですね。

 それが時を経ると、アルコールを中心にきれいに配列し安定化します。すると、香味がものすごく丸みを帯びてきて、口の中に入れるとトロっとしたおいしさにうっとりできます。熟成した焼酎や泡盛の「古酒」が愛されているのは、こうしたよさが出てくるためです。

原料の違いによっても
異なる味わいを楽しめる

 焼酎の世界では、原料そのものの匂いを直接感じられる鹿児島の芋焼酎や、さっぱりした飲み口の大分の麦焼酎などが知られていますが、長崎の壱岐も麦焼酎の島として名高い所です。他にも、球磨焼酎と呼ばれる熊本の米焼酎、宮崎のそば焼酎、奄美大島の黒糖焼酎などなど、いろいろな原料を使ったさまざまな種類が存在します。スコッチ・ウイスキーは大麦、ブランデーはブドウ、ウォッカはライ麦、テキーラは竜舌蘭の根っこなどと、世界的に蒸留酒は単一原料であることが多い中、原料の違いによって異なる香味を楽しめるのは大きな魅力です。

 日本の焼酎の元になった南蛮酒は、一五世紀頃までに、シャム(タイ)から琉球(沖縄)へ伝えられたと言われます。そして焼酎は、江戸時代には広く庶民に親しまれていました。十返舎一九の『東海道中膝栗毛』にも登場します。それは、喜多八が酒売りから焼酎を買い、足にふきかけて旅の疲れを取るというシーン。いまでも鹿児島では、焼酎は「ダレヤメ」、つまり疲れを取る酒とされていますが、当時からそのような捉えられ方をしていたのでしょう。

 私は鹿児島大学や琉球大学でも講義をしているので、それぞれの土地で、焼酎や泡盛のいろいろな飲み方や肴を覚えてきました。つまみには、沖縄のラフテーやテビチ、鹿児島のとんこつやつきあげなど油っぽい料理がぴったりですね。では東京では何か。そこで登場するのが「天ぷら」。これと焼酎や泡盛が本当に似合う。この組み合わせ、大好きですねぇ。