自社が保有する不動産を有効活用して企業価値を向上させる「CRE(企業不動産)戦略」が注目を集めているが、成果を挙げている企業は少ないという。何が障害になっているのか?CRE戦略の現状と課題、先進企業の成功例を紹介する。
1997年に起こったアジア金融危機以降本格化した不況は、日本企業の経営を圧迫し、名だたる大企業ですら業績不振に見舞われた。その中で日産自動車や日本電気(NEC)は利益を生まない不動産の圧縮に動いた。日産は98年に東京・銀座の本社ビル新館を、NECは2000年に三田の本社ビルを売却した。「こうした動きを先駆けと捉えれば、日本のCRE戦略には15年の歴史があることになります」と、早稲田大学大学院ファイナンス研究科の川口有一郎教授は言う。
国土の14%を
企業が保有する
早稲田大学大学院ファイナンス研究科長
ファイナンス研究センター所長
1991年東京大学にて工学博士の学位取得。96年英国ケンブリッジ大学土地経済学科客員研究員を経て、2004年4月より現職。著書に『不動産金融工学』『不動産エコノミクス』(共に清文社)、『International Real Estate』(Blackwells)、『実践リアルオプション』(ダイヤモンド社)など。
企業経営にとって15年は長い時間だが「その間にCRE戦略に積極的に取り組んだ企業と、まったく手を付けなかった企業の濃淡がグラデーションのように広がっています。ただ濃い部分に居る企業はごく少なく、マジョリティは薄い部分に存在しています」。
国土交通省の資料によると国内の不動産約2300兆円のうち、企業が所有している不動産は国土面積38万平方キロメートルの約14%に相当する約490兆円、国・地方公共団体が所有する不動産は40.7%に相当する約470兆円に上る。国はこれらの不動産の有効活用を推進するため08年4月に経営者層から管理者層、実務者層に向けた「CRE戦略を実践するためのガイドライン」「CRE戦略を実践するための手引き」を作成したが経営者層の関心を呼ぶことができず現在に至る。
「CRE戦略に関わる人材のピラミッドを描いたとき、頂点には経営戦略を立案する経営者層が位置し、底辺には日常業務に携わるプロパティマネジメント・ファシリティマネジメント(設備等の管理)や建築グループ、開発グループ、不動産売買グループが存在しています。15年の間に底辺層である現場はCRE活用のために活発に動くようになったのですが、それが頂点に届いていないのが実情です」(川口教授)。
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