——力強い経済回復を実現するための要因は何でしょうか。

伊藤 実はすでに“起動装置”は埋め込まれています。その重要なファクターは「金利」です。10年の時点では、生鮮食品を除く前年同月比の消費者物価上昇率がマイナス1%で、名目金利は1%前後でしたから、名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利はプラス2%の水準にありました。それが今、どうなってきているか。

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 日本銀行は物価上昇率を2%に持っていく強い決意を表明していますし、近年の名目金利は0.5%前後の低水準にとどまっています。そうなると、実質金利はプラス2%の時代と比べて3.5%も下がり、マイナス1.5%という戦後の日本が経験したことがないほどの実質マイナス金利状態に置かれます。

 実質金利の水準は、企業の投資や家計の住宅投資、資産運用に強いインパクトを与えます。企業経営においても、実質金利プラス2%の時代であれば、内部留保を厚くし、取り立てて新しい動きを起こさなくても経営の巧拙は問われませんでしたが、実質金利がマイナスの時代になると、投資利益の出ない所に資金をためておくことは、コーポレートガバナンスの面でも許されません。

 手持ち資金を、業界再編につながるようなM&A(合併・買収)に向けるのか、株主への配当金増額に使うのか、あるいは社員の賃金上乗せに使うのか、といったことを考えなければいけない状況なのです。実質金利がマイナスという絶好の投資タイミングに、「何もしない」「ただ守るだけ」ということは、企業にとっては、それだけで大きなリスクを抱えていることになるのです。