農村出身の中国人従業員を相手に、毎日が驚嘆。「なぜ残業しないのか」「なぜ『すみません』の一言が言えないのか」「なぜ俺の言うことが聞けないのか」……と日本人総経理らはあらゆる「なぜ」に困惑しながらも、現場をどう束ねるかの知恵を絞り出した。
「社員は家族」と、福利厚生の時間に社交ダンスを取り入れるワタベウェディング、人間臭さを前面に押し出した「感動の経営」を取り込んだ日本ビクター、大運動会で結束を目指した神明電機など、現地子会社が走り出した当時の総経理たちは困難を背負いながらも、額に汗して闘った。
ところが、2002年に入ると多くの現地日系企業で総経理の交代が行われるようになる。ほぼ3年サイクル(もちろん、骨をうずめる覚悟で総経理職を勤め上げる方もいる)で、という任期満了の時期が到来したのだ。中国人従業員は困惑し、新総経理に対する信頼は揺らいだ。「会社ではなく、人につく」という性質の中国人従業員らからは不満の声も徐々に大きくなり、初代の人材として比較される「二代目総経理」との関係に不協和音が響くようになった。日本人総経理に「ゴルフ、カラオケ、酒、女」の枕詞がついたのもこの頃だった。
日本語を社内の共通語とし、社員に責任を押し付けることを権限委譲と勘違いし、さらには「俺は偉い」とおごり高ぶる。一方で、本社に忠実であろうと、予算1つ1つにお伺いを立てる。中国人従業員にはそれが「小遣い使うのにいちいち女房の顔色を伺う夫」のように映り、「決断ひとつできない日本人社長(総経理)」がステレオタイプイメージとして定着してしまった。
もともと、本社では課長・部長クラスの人材が現地の総経理に納まることが多いのだが、総経理室に、秘書・通訳、専用車と運転手までもが与えられると、勘違いして豹変してしまう日本人も少なくない。しかし、経営と言えば、先代が敷いたレールの上で、ただひたすら帰任を待ちわびるという消極的なもの……。その一方で、陰に隠れてのやりたい放題。日本人総経理の不正経理や眼に余る贈収賄、そして私生活に至るまでが、張り巡らされた中国人情報の上に暴かれる。その資質については、日本人コミュニティでもたびたび話題になるところだった。
もちろん、事業を成功させた日本人トップも複数いる。上海の人材コンサルタント「クイックマイツ」の総経理、小園英昭さんはこう話す。
「若い頃にだいぶヤンチャしてた人などに、うまく中国法人を運営されている方が多いようにも感じます。暴走族だった、とか、ヤクザと喧嘩した、だとか相当なワルをしておられた方。ある意味、不器用かもしれませんが、『自分の信念』を貫き通すことができる人が中国人の心もしっかり掌握しているとも言えるのではないでしょうか」



