大企業復活を優先させるアベノミクスの下で、中小企業の経営者は、何をなすべきなのか?国際ジャーナリストの蟹瀬誠一氏とダイヤモンド経営者倶楽部の徳力滋代表が2015年の経済見通しや、中小企業が置かれた現状、経営者に求められる資質を語り合った。
蟹瀬 英経済誌「エコノミスト」に載っている2015年の世界予測を引用すれば、米国とインドの経済は強く、中国は失速、欧州は停滞、日本は英国人独特の皮肉を交えて「夢見心地」だそうです。景気回復に向かっているかのような夢を見ているけれど、現実は厳しいということです。
徳力 私も景気は多少好転するにしても、「良くなった気分」で終わるのではないかという危惧を抱いています。ただダイヤモンド経営者倶楽部の会員企業を見る限りでは、景気が悪いときでもしっかり経営している印象を受けます。そこにはアベノミクスの恩恵を受けて最高益を記録している大企業とは別の経済があるように見えます。
蟹瀬 それは大事なポイントですね。本来経済は70兆ドルといわれる実体経済で動くべきですが、輪転機でお札を刷って作り出した金融資産200兆ドルという虚構の経済が存在する。この巨額マネーが「利益」を求めて世界の市場をかき回していますが、中小企業はわりと実体経済に近いところの仕事をしているので、足元が見えている、という気がしています。
徳力 ここに来て、技術系の企業が元気になってきています。停滞期に関発に取り組んできたことが花開いてきたといいますか。しかし一方で経営者から、「飯を食いましょう」というお誘いが増えています。それは悩みを聞いてほしいというサインで、悩みの多くは、経営判断に必要な要素が複雑で、以前は決断ができたことでも今は判断がつかないという内容です。
蟹瀬 先行きが不透明だから、経済予測を頼りにするのでしょうが、実は経済予測なんて当たらないものなのです(笑)。複雑な実体経済は人間の予測の範囲を超えていますからね。そんな中、躍進する企業に共通していることは、常に変化を捉えていること。それがイノベーションにつながっていく。そして資金繰りで無理をしていない、後は信頼できるリーダーが居るということでしょうか。経営者は起きたことに対処できる態勢を整えておくと同時に「勘」を働かせる。ヤマ勘ではなく、不断の努力から得られる先見性というべきものです。
経営に不可欠な
イノベーション
蟹瀬 経済成長のためには人口の増加が不可欠ですが、高齢化もあり、このままでは日本経済は人口減少とともに衰退する一方という傾向がここ数年で顕著になってきました。有効求人倍率が下がっているのは、景気回復というよりは、職を求める若者の数が減っているせいです。
徳力 中小企業では、どうにか人手は確保できたとしても、後継者社長が見つからず、事業承継が難しいケースや企業の成長を持続させるための次の一手が見つからないという悩みもあるようです。
蟹瀬 経営者が高齢化して、企業の成長の源であるイノベーションを起こせなくなっていることが問題のようです。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは約100年前にイノベーションには①新しい製品の開発、②新しい生産方法の導入、③新しい市場の開拓、④新しい原料の獲得、⑤新しい組織の実現が必要だと説きました。この五つの要素は今でも通用します。しかしイノベーションを起こせない経営者はコストカットに走り、実質賃金を低下させ、結果としてデフレを招いてしまいました。
徳力 デフレが続く中でも起業してきている人は、お金はそこそこでもいいから何か世の中のためになることをしたいとか、住みやすい社会をつくりたいとか、社会に貢献をという思いをお持ちの方が多いような気がします。また、イノベーションを起こそうとしている若い経営者の中には、当経営者倶楽部の会員になることで、経営者としての品格を身に付けたいという人もいます。蟹瀬さんは経営者の品格を、どのように捉えていますか?
蟹瀬 言葉で表すのは難しいのですが、ジェントルマンであれ、ということでしょうか。フェアな競争をして利益を挙げる。他人には優しく接し、自分には厳しく律する。それが品格を生むのでしょう。とにかく、中小企業が元気にならないと日本が元気にならない。芯のある、突破力を持つ経営者であってほしいと思います。
日本経済の活性化に貢献する趣旨のもと、次世代産業の中核を担う中堅・ベンチャー企業経営者の支援を目的としてダイヤモンド社が設立。現在の会員数は500人を超える日本有数の経営者倶楽部。