GCMの推進には
リーダーシップが不可欠
日本企業のGCMに関するPwCの調査(前述)によると、上位企業の多くは、資金管理の効率化に資するプーリング(グループ会社の余剰資金を集約する仕組み)を導入している。なお、プーリングには、預金と貸越の残高相殺により負債を圧縮、金利コストを削減するアクチュアル・プーリングと、残高を擬似的に基軸通貨に換算・相殺し支払利息を削減するノーショナル・プーリングがある。また、一部の先進的な企業では決済の効率化に関わるネッティング(債権・債務を相殺するため支払金額と受取金額の差額を決済する仕組み)も採用していた。
「GCMのステップ(図表3)で見ると、日本企業の多くは『資金管理の高度化・効率化』の段階にあります。一方、欧米企業は『決済の高度化・効率化』『リスク管理の高度化・効率化』に取り組み、ペイメント・ファクトリー(グループ内の支払業務を集中管理する仕組み)やコレクション・ファクトリー(一つの金融機関が、ほかの金融機関の入出金明細を一括受信し、回収業務を集約する仕組み)、社内ヘッジ取引(為替予約の集約化)といった、先進的な取り組みを行う企業も数多く見られます」(福永氏)
日本企業の多くは「資金管理の高度化・効率化」の段階にある。一方、欧米企業は 「決済の高度化・効率化」「リスク管理の高度化・効率化」に取り組む。
日本企業は、欧米企業に学びながらGCM導入を進めることになるが、ハードルは、経営陣の考え方や企業風土だと伊藤氏は指摘する。
「欧米企業が新たな仕組みを導入する場合は、経済合理性に鑑みて、トップダウンで実行されます。日本企業の場合、本社に導入の意思があっても、現地子会社の顔色をうかがうところがあり、導入に時間がかかるケースもたびたびです。トップが強力なリーダーシップを発揮し推進していかないと、導入はなかなか進みません」(伊藤氏)
SCFでは、サプライヤーが保有するバイヤー向け債権を銀行に譲渡し、買い取りを依 頼することで期日前に資金化することができる。サプライヤーは相対的に高いバイヤー の信用力に基づいた資金調達が可能になり、バイヤーはサプライヤーに対し支払コス トや支払期日延長の交渉が可能になる。
GCMのなかでも難易度が高いサプライチェーン・ファイナンス(SCF、図表4)がよい例だ。実行には、財務部門や、事業部門、サプライヤーとの協調、また銀行の協力も不可欠だ。
トップの意識を変える以外にも、GCM推進のカギを握る要素として、人材育成と外部専門家の活用を両氏は挙げる。
「それぞれの会社で資金の流れ、商流は異なります。先進事例に学びつつも、自社グループにとって最適な仕組みやソリューションは何かを見極めながら全体をデザインしていくことが重要です。グローバル最適の視点から資金管理構想を描くことができる人材の育成も急務です」(福永氏)
「資金管理の問題は、各国の規制や税務の問題とも密接に関係しています。複数の部署にまたがる問題を解決するには、組織のあり方から考えていく必要があります。ガバナンスの強化を図ると同時に、豊富な知見を持ち、高度なソリューションを提案してくれる金融機関や外部の専門家の活用も不可欠です」(伊藤氏)