数寄屋造りは日本の
住宅版システム建築
「システム建築に近い考え方は古くから日本にありました」と黒川氏は言う。
「数寄屋造りがそう。工場で木の柱などの部材を切ってほぞを彫り、現場へ運んで1日のうちに組み立てる。木という部材で標準化を図り、土という非標準的なもので壁や窓を作ったのです」
しかし住宅の分野では、米国から部材と工法をセットにした“数寄屋造りの進化版”であるツーバイフォー(枠組み壁工法)が1970年代に入ってハウスメーカーから売り出され、現在では住宅建築の1割を超えるシェアを占めている。
一方、工場や倉庫のような非居住用建築物のシステム化は、やはり米国が発祥(米軍のかまぼこ兵舎が起源といわれる)であり、60年代後半になって日本へ導入された。
「それまでは、建築とは施主の依頼を受けて建てるものでしたが、導入以降、施主が依頼する前から標準化した商品を生産して、ストックしておく流れが生まれた。その流れを営業から施工まで幅広く捉えて、高度にシステム化した商品が現在のシステム建築です」
工場で生産する建築物という表現をすると、画一的なデザインの建物になるのではないかと短絡化しがちだが、杞憂であるという。
「建築におけるデザインとは、鉄骨の構造のような確立された構造方式を前提として、自由な組み立て方で美しい形や美しい空間を作ろうと考えること」(黒川氏)なので、システム建築=画一的ではない。それは各社の製品が証明している。
さらに進化を続ける
システム建築
ただ市場規模(鉄骨造りの工場・倉庫)に対するシステム建築のシェアは10%程度(米国は60%程度)といわれ、これから普及期を迎えるだけに「デザインの進化の余地は十分にあると思います。例えば工場であれば、光の入り方などを工夫して従業員の働く意欲を高めるデザインなどが考えられるのではないでしょうか」と黒川氏は期待する。
システム建築を購入した企業を取り巻く環境の変化に対応する工夫も必要だという。
「増築が必要になれば、すぐに取り掛かれる設計、取り壊した部材を再利用できるような知恵が求められます。もともと開発力のある企業が生産している商品なので、環境や省エネ・省力などに配慮した新しい素材が生まれることも期待できます」
国土交通省の「建築着工統計」に興味深い数字がある。事務所、店舗、工場および作業場などの産業用建築物の床面積合計は2013年に約5595万平方メートルだったが、14年は約5382万平方メートルへ減少している。ところが工事予定額は約9兆5000億円から10兆円へ増えている。建築費の高騰が背景にあるようだ。
東京五輪が開催される20年に向けて、建築需要はますます高まる。建築費が増え、工期が延びる。施主にとっては看過できない状況だからこそ、従来工法に比べてコストも工期も圧縮できるシステム建築が重要な選択肢になるのである。