M&A成功の鉄則は
売り時を逃さないこと

 中でも最も注目すべきは、先頭に記されている「売り時を逃すな!」。

 M&Aはタイミングが重要です。売るべきときを逸したがために、企業の価値が下がったときに不利な条件で譲渡しなければならなくなるケースも少なくありません。お金の問題じゃないという経営者もいますが、M&Aの評価額とは、『通知表』のようなものです。

 長年取り組んできた事業が低く評価されるのは不本意でしょう。少しでも高く売りたいと思うのは当然のことです。それに、企業の価値が下がるということは、買い手から見れば魅力が減るということでもあります。ということは、それだけ譲渡先も見つかりにくくなるのです。

 よく誤解されるのですが、ベストな売り時は、業績がピークのときではありません。伸び代が残っていたほうが、買い手にとっても魅力的に映ります。『もったいないな』と思うくらいの時期ほうが企業価値が高く算定されるので、売り時としてちょうどよいのです。

譲れない条件と譲歩してよい条件の
線引きをはっきりさせておく

 売却条件を明確にしておくことも欠かせません。「従業員の雇用を維持する」「社名は残してほしい」など、オーナー経営者にはさまざまな思いはあることでしょうが、買い手にも買い手の意向があります。

 残念ながら、売り手側の条件をすべて受け入れてもらったうえで売却することは難しいと言わざるを得ません。そこで重要になるが、「これだけは絶対に譲れない」という条件と、ある程度は譲歩してもよい条件を峻別することです。事前に条件を整理して優先順位をつけておくことで交渉もスムーズに運びます。

 改めて言うまでもないことかもしれませんが、M&Aを実行するかどうかやどういう条件で売却するかなどについて決断するのはオーナー経営者自身の役割です。家族経営の企業などでは、家族みんなの意見を聞いたうえで最終決定する経営方針のところもあります。

 日常の業務でならそういった“民主的”な経営もよいでしょうが、M&Aについては賢明なやり方とは言えません。意見の調整に時間がかかって売り時を逃してしまったり同業他社や取引先などに情報が漏れたりしがちだからです。相談するにしても、ごく一部の最側近に留めておきましょう。

M&Aの相談に
「早すぎ」はない

 いざM&Aを行なうと決めても、企業価値評価や法律・税金の問題など、専門家の力を借りなければ解決できないことがたくさんあります。

 M&Aの場合、『相談するのに早すぎる』ということはありません。相続が発生してからM&Aを行なおうとしても手遅れになることもあります。オーナー経営者は「体が元気なうちは、事業承継など考える必要はない」と思いがちですが、なるべく早めに相談されることをおすすめします。

 早めのアクションが売り時を逃さないことにつながるということです。