2016年、建設の世界が大きく変わる。国土交通省が測量・設計から施工、管理までをICT化する「i-Construction」(アイコンストラクション)という新基準の導入を発表したからだ。「i-Construction」により建設のプロセスの何が変わるのか。建設機械にどのような影響を与えるのか。建設ITジャーナリストの家入龍太氏に聞いた。
「i-Construction」の目的は、建設のプロセスを自動化することで、建設現場の生産性を向上させる点にある。家入龍太氏によると「土を削ったり盛ったりして造成・埋め立てを行う土工やコンクリート工事の分野の生産性は過去50年間でほとんど変わっていない」と言う。「そこでi-Constructionを導入することで両分野の生産性を上げて、省力化とコスト削減を実現させ、経営環境を改善し、賃金アップや業界のイメージ向上につなげたいと国土交通省は考えてます」。
職人の大量退職で
建設現場が回らない
その背景には建設業界の慢性的な人手不足がある。国土交通省のデータによると建設業の就労者数のピークは1997年度の685万人。それが2013年度には約3割減の499万人となり、今後も減少を続けると推定されている。同時に労働者の高齢化が進行している。年齢構成グラフはM字を描いており35~39歳と55~65歳が最も多い。そのうち50代、60代の熟練労働者は「図面を見ただけで頭の中で立体が浮かぶ高いスキルを持った職人が多い」(家入氏)ことから5年後、10年後に大量の退職が起こると、現場が回らなくなる恐れがある。また日本の現場に慣れていない外国人労働者の進出も目立っていることから、ICT化は不可欠なのである。
情報化施工の考えを
建設の全工程に拡大
家入龍太氏
いえいり・りょうた 書籍や講演、Webなどを通じて建設業が抱える経営課題を解決するための情報を発信。京都大学工学部土木工学科卒業。米ジョージア工科大学大学院工学修士課程修了、京都大学大学院修士課程修了。資格は中小企業診断士、1級土木施工管理技士などを持つ。『これだけ!BIM』(秀和システム)など著書多数。
国交省はこれまでも公共工事の分野で「情報化施工」という名のICT化を推進してきた。08年に産学官の委員により構成する「情報化施工推進会議」を立ち上げ、調査、設計、施工、監督・検査、維持管理という建設生産プロセスのうち、施工の部分にICT建設機械を導入し、GNSS(GPS)の位置情報なども活用して高効率・高精度な施工を実現しようという試みである。情報化施工技術の活用工事件数は13年度に1000件を超えたとはいえ、道路や河川などの土工分野の直轄工事全体で見ると、約13%にとどまっている。
普及が進まない大きな理由の一つは建設プロセスの一部だけのICT化を目指したことにある。簡単に表現すれば調査、設計のデータをアナログ(2次元データ)で作り、情報化施工に合わせてデジタル化(3次元データ)し、それを再びアナログ(2次元データ)に戻して監督・検査、維持管理を行うということ。これでは非効率過ぎる。そこでi-Constructionでは全プロセスのデジタル化を目指す。例えばドローン(小型無人飛行機)を飛ばして地形を3次元測量し、現況地形と3次元設計図面の差分から切り土・盛り土の土量を自動的に計算して必要な工期や建機の数を割り出し、ICT建機で施工を行い、完成後の検査や維持管理の場面でも紙の書類を極力減らす。
i-Constructionに必要な土木工事施工管理基準などは年度内に改定し、16年度からの運用を目指している。
「建機が稼働する現場に作業員が入って作業する場面が減るため安全性が高まり、建設業界に興味を抱く人も増えるのではないでしょうか。またICT化によって女性の参加も進むはずです」と家入氏は期待を寄せる。