あえて個性を際立たせず、消費者が求める
究極のライフスタイルショップ空間を提案する

 その結果、提案したのは、あえてブランドの個性を際立たせず、消費者が求める究極のライフスタイルショップ空間だった。

「調査をして気づいたのは、どのブランドも他店舗との差別化のため、どこかで店舗に個性を出そうとしていること。でも成熟した市場では、時としてそれが自由で快適なショッピングの邪魔になることもある。特にモールなど、回遊しながら買い物をする環境では、どの店で買ったかより、どんな商品に出合えたかの方が重要になる。であれば、店舗に入ったことを感じさせないくらい自然な空間づくりで消費者に商品を提供したいと考えました」

 もともと「ドレステリア」自体が、本質的な品揃えが魅力のブランドである。そのブランド哲学にも合致していた。

 店舗づくりで工夫したのは、陳列什器をできるだけ作り込まないことだった。アンティークを大量に買い入れ、その風合いを残したまま、最低限の手入れをして、無造作に見えるように置いてゆく。本屋の平積みのコーナーのように、商品をわざとひしめきあって置き、物量感を出して購買欲を高める工夫、あるいはアウトドアショップを参考に、商品を組み合わせて見せ、ライフスタイルを提案する工夫も行った。つまり、商品の置き方や飾り方で個性が出るように仕向けたのだ。それによりリラックス感が自然に醸し出された。

「ル ティロワ ドゥ ドレステリア」は2014年に二子玉川で1号店がオープン。その後も店舗数を増やしている。綿密な調査と分析の上に立ったデザインで、ロジックに基づいてステップごとに仮説を設定するため、開店後の環境修正も行いやすいという。「ショップのスタッフなど現場に近い方にも企画の段階から打ち合わせに入ってもらったこともあって、店舗スタッフの方々自らディスプレイを工夫しながら、業績を上げていったのです」

「下町パリジャンの日常生活」をコンセプトに、シンプルでトラディショナルなウエアと、ヨーロッパの工場で作られる生活雑貨をセレクト。一般的な陳列什器ではなく、アンティークの家具を効果的に配置。洗練された素朴さを持つ店舗デザインが特徴だ(撮影:ナカサ&パートナーズ)