会社の強みや
優位性を“棚卸し”する

 では、その上でオーナー・ファミリー中堅・中小企業の経営者は、どのようにビジネスモデルを構築すべきなのか。松田氏は、いったん自らの会社の強みや優位性を“棚卸し”し、技術軸と顧客軸をミックスして考えてゆくことが重要だという。とかく日本企業は技術力などの“モノ”にとらわれがちで、ビジネスを展開する“コト”を見失っているという。

「例えば、交通機関が馬車から鉄道へ移行したとき、馬車屋から鉄道屋に転身した経営者はいたでしょうか。テレビや新聞などの既存のメディアも、ネット事業に移行して成功してはいません。つまり多くの経営者は、今自分たちが提供しているサービスや製品が、永遠に続く自分の事業、顧客に求められる事業であると思い込んでいるのです。

 人やモノの移動をたまたま馬車でやっているだけで、考えるべきは、人とモノの移動の時間をいかに縮めるかという、上位概念です。そこから発想したときに初めて、鉄道やネット企業という発想が生まれる。言葉を変えれば、技術軸で考えるのではなく、“早く移動したい”という顧客軸で考える必要がある。技術軸と顧客軸の2軸をミックスして考えることで、イノベーションは生まれるのです」

規制の強い分野こそ
チャンスがある

 中堅・中小企業が活躍できる分野は身近なところにある、と松田氏は指摘する。すでに市場が成熟している分野は進出しにくい。だが「規制が徹底的にある分野、官が持っている事業ほどやりやすい。なぜなら、そこには改革がなく、新しい変化がない」からだ。

 かつて英国のヴァージン・グループが航空業界に乗り出したように、一見牙城に見える分野ほど、チャンスは大きいという。「例えば今、既存の学校のシステムの中で、教員が一番脅威に思っているのは、ITを活用したネット教育です。教室があり、教壇に教員がいるというシステムは、教育の単なる一つの方法にすぎません。規制が厳しい教育業界ですが、そうした分野ほどブレークスルーをする余地があるのです」

 またグローバルに視野を広げれば、市場はさらに拡大する。新興国などの市場には、日本国内で需要のなくなったモノや人材が活躍できる場所があるのだ。松田氏はこれを「タイム差」と表現する。世界の産業構造を俯瞰することが大事で、顧客軸で考えると、ファミリー・ベンチャー企業でも世界市場へ進出できる可能性はあるという。

オンリーワンより
ナンバーワンを目指せ

「日本はもともと産業構造が厚く、世界トップクラスに数えられる経営資源は、全て備わっていると言っても過言ではありません。今日本がやるべきことは、国全体で優位性の“棚卸し”をして、IT・テクノロジーを使ってグローバルに市場を求めてゆくこと。

 いずれにしても、ベンチャー・ファミリー企業が狙う市場はニッチで、そこでナンバーワンの存在であり続けることです。それも圧倒的な1位になることが必要です。オンリーワンはまねされるが、ナンバーワンは他を圧倒して優位性を保ち続けられるからです」

 まずは、自社の既存経営資源の棚卸しをして、優位性を拡大できるビジネスモデルを確立すること。大学や政府、自治体などのインフラを活用することも推奨される。「ニュービジネスを生み出す活力組織を形成するのは、ベテランと若者の組み合わせ。発想と経験値を融合することで、新しい価値が生まれるのです」。

ダイヤモンド経営者倶楽部とは
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