経営トップの中期戦略遂行を
不動産の視点からサポート
これら「三種の神器」を備えたうえで、CRE戦略の専門部署が行うべき役割が3つある。
1つ目は、日々の事業活動における不動産のニーズや問題点に対するソリューションの提示である。
2つ目は、不動産サービスの“社内顧客”のニーズと外部ベンダーのサービスをつなぐ「リエゾン(橋渡し)機能」を果たすことである。
CRE部門が「リエゾン機能」を十分に果たすためには、社内顧客から不動産ニーズを的確に吸い上げることが不可欠であり、社内顧客との関係構築、言わば「社内CRM」が重要だ。その一方で、外部ベンダーを使いこなすためのベンダーマネジメント機能も必要になる。社内CRMとベンダーマネジメントには、社内顧客や外部ベンダーとの十分な信頼関係・人的ネットワークの醸成が欠かせない。
そして3つ目は、中期的な経営戦略の遂行をサポートするための不動産マネジメントの立案と実行である。百嶋氏はこれを「マネジメント・レイヤーのCRE戦略」と呼び、「CRE戦略で最も重要な役割」と説明する。その代表例の一つとして「事業ポートフォリオや資本構成の入れ替えを加速する役割」を挙げる。
たとえば、中期経営戦略に沿った事業の選択と集中の結果、遊休化した不動産を売却し、その売却収入を設備投資やM&Aなどコア事業への拡大投資、あるいは有利子負債削減に充当することで、事業ポートフォリオや資本構成の入れ替えを図る。継続的な企業価値向上には、本業強化に向けた先行投資が欠かせない。遊休不動産をタイムリーかつ高値で売却し投資資金を捻出するとともに、適地に事業用地を迅速に確保することがCRE部門の役割となる。
このようにCRE戦略は、中期的な経営戦略を遂行するうえで、極めて重要な役割を果たすことになる。
日本企業にCRE戦略が浸透しない一因として、一部で「CRE戦略=不動産売却」というように、不動産売却が強調されすぎてきた側面があるのではないか、と百嶋氏は言う。
「CRE戦略は、不動産会社や信託銀行が事業会社に土地売却を促し、仲介手数料を稼ぐための宣伝の道具にすぎない、と誤解されていた面があるのではないか。もちろん、遊休不動産の売却という選択肢を持つことは妥当だが、単なる不動産売却はCREの『出口戦略』であってCRE戦略の目的ではない。それを通じて事業や財務の構造再編を加速させることこそが重要であることを、あらためて認識すべきだ」と百嶋氏。
バブル崩壊による「土地神話」崩壊以降、価格変動リスクを抱えるようになったCRE。ROE(自己資本利益率)を高め、企業価値を最大化するためにも、いまこそCRE戦略のための適切なマネジメント体制の構築が必要とされている。