住まいのリフォームの本来の目的は、雨漏りのような目先の問題を解決することではない。将来にわたって家族が快適に過ごすための環境を手に入れるために行うものだ。専門家に失敗しないリフォームのポイントを聞いた。

住宅リフォームコンサルタント
尾間紫氏
1級建築士、インテリアコーディネーター。30年近く住宅のリフォームやインテリア、プラン設計、工事に携わってきた経験から、本当に幸せになるリフォームは、過去を繕うことではなく、未来の暮らしを創ることであるという「リライフのリフォーム」を提唱。消費者と事業者をつなぐ架け橋となるべく、事業者向けの人材育成研修や講演の他、各種メディアや講演会などを通じて消費者への情報発信にも積極的に携わる。

 住宅リフォームには、不安が尽きない。どの範囲・程度まで直せばいいのか、適正価格はどのくらいなのか、良い業者をどう見分けるか……。

 リフォームの専門家で1級建築士の尾間紫氏は「不安を感じる大きな原因は、『わが家の現状を知らない』ことにあります」と指摘する。

 自分の体については、定期的に健康診断を受けて状態を把握したり、異変を感じたら医師の診断を仰いで対処したり、不安をそのままにすることはあまりない。ところが住宅、特に戸建て住宅の場合、定期点検や定期修理という習慣がなく、多少の不具合であれば、まだ大丈夫と放置しがちだ。また、手を入れた箇所があっても「何年前に雨漏りを直した」程度でしか認識していない。

 尾間氏が勧めるのは、まず、住宅の履歴書となる「住まいのカルテ」を作ること。いつ、どの部分にどのような処置をしたのか、施工は誰かといった情報をファイルして残しておくことだ。そうした履歴がきちんと管理できていれば、リフォームにも役立ち、住宅の長寿命化にもつながるという。

成功のための四つのポイント

 尾間氏は、リフォームで失敗しないために押さえるべき四つのポイントを挙げる。(1)リフォームすべき時期、(2)お金のかけ方、(3)未来のためのリフォーム、(4)高品質・長寿命化だ。

 リフォームすべき時期とは、不具合の修繕ではなく、不具合が起きる前に予防し、住まいを健康に長持ちさせるための工事をいつ行うかということだ。これは、部位の寿命に合わせて定期的に行う必要がある。例えば、基礎や土台をシロアリから守る防蟻工事は、薬剤の効果が薄れる5年置きに行う。雨や紫外線を浴び続けている外壁塗料の耐久性は10年程度で失われるので、外壁を10年置きに塗り替える。キッチンなどの水まわり機器の耐用年数は15〜20年なので、そのサイクルで設備を更新する。「住まいのカルテ」でそうした工事の記録を残しておくことで、次はいつ、どの部分に手を入れるべきか予測でき、資金計画も立てられ、急なトラブル対応に慌てることも少なくなるはずだ。

 また、リフォームにはお金がかかる。だからこそ「目先の工事費用ではなく、イニシャル(初期)コストにランニング(保守)コストを加えたトータルコストで判断してください」と尾間氏は注意を促す。リフォームの部材は進化し続けており、長寿命のものも開発されている。外壁用塗料の耐用年数は10年程度のものが多いが、最近では20年持つものもある。「耐用年数20年の塗料を使って塗装する総費用は、10年のものに比べると1.3倍程度。多少高くても塗り替え回数が少なくなるので、長期的に見ればコストを抑えることができます」。

 そして、関連する部分はまとめてリフォームすること。水まわりのように設備品の入れ替えを伴うものは、キッチン、風呂、トイレの設備品をまとめ買いすることで値引きが期待できる。外壁や屋根を直す際には、足場が費用の大きな割合を占めるので、1度の足場組みで行える部分全てをリフォームする。屋根を直したすぐ後に雨どいが壊れた場合は、再び足場を組まなければならず、雨どい交換費用に加えて、足場のレンタル費用が再度かかってしまう。屋根や外壁を直す際には、雨どいや窓の交換も考えに入れておきたい。