新卒採用で売り手市場が続く中、人材確保に苦労している企業は多い。採用に対する危機感の高まりを背景に、新しい手法にチャレンジする企業も出てきている。変革をリードするのは経験豊富な採用担当者だが、経営者のバックアップも欠かせない。近年の採用活動の動向と課題などについて、「採用学」を提唱する横浜国立大学大学院の服部泰宏准教授に聞いた。

 6月1日の「新卒採用解禁」から約1カ月。採用戦線は山場を越えようとしている。

 ここ数年の売り手市場と相まって、「欲しい人材を採れない」と嘆く経営者や人事担当者は少なくない。少子高齢化を背景に、人材獲得競争はさらに厳しさを増す可能性が高い。そこで、自社の採用活動を見直す企業も出てきている。

大企業の動きは鈍いが
採用活動に変化の兆し

横浜国立大学大学院
国際社会科学研究院(経営学部)
准教授
服部泰宏氏
1980年生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科マネジメント・システム専攻博士課程を修了し、博士号(経営学)を取得。滋賀大学経済学部専任講師、同准教授を経て、13年4月から現職。著書に『日本企業の心理的契約─組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)、『採用学』(新潮選書)など。現在「ダイヤモンド・オンライン」で「なぜ日本企業の人事部は採用が下手なのか?」を連載中。

 日本企業の採用慣行の特徴として、新卒一括採用がある。どの仕事に配属するかを決めないまま、大企業ならまとめて数百人規模で採用する。その結果として起きている問題点を、横浜国立大学大学院の服部泰宏准教授はこう指摘する。

 「どの仕事に就かせるのか分からない状態で採用するので、応募者に求める能力は曖昧にならざるを得ません。一方の学生も、配属される職場や勤務内容が明確でないので、何を期待していいのかが曖昧です。能力と期待、両面の曖昧さが日本の新卒採用の特徴です」

 その結果、多くの企業は大学名やコミュニケーション能力といった明確とは言い難い基準で学生を選考し、入社後にミスマッチが顕在化するケースは多い。最大手も準大手も同じような基準で選ぶので、二番手以下の大半の企業は「優秀な人材が来ない」と嘆くことになる。

 こうした現状を打破するために、一部の企業は採用活動の変革に取り組み始めている。「求める人材の能力を具体的に定義しようという動きがあります」と服部准教授は言う。

 従来通りの曖昧な基準で人材を選ぼうとすれば、他の多くの企業と競合する。自社にとって重要な能力を明確化することで、人材獲得競争をある程度避けることができる。

 例えば、企業が拠点を置く地域にこだわりを持つ学生、学力や成績に自信のある学生などを分けて、幾つかの採用コースを本人が選べるようにする企業がある。このような方式は、カフェテリア採用と呼ばれる。採用プロセスから面接をなくした企業もある。それぞれの企業が、独自の工夫で従来の枠組みから脱却しようとしている。

 「新しい採用にチャレンジしている企業には、採用業務に長く携わってきたプロがいます。経験を積み重ねる中で、新しいアイデアを考え実行してきた人たちです。また、新しい取り組みに対して経営者がコミットしています。一方、一般的な日本の大企業では採用担当は数年ごとに入れ替わるので、知見が蓄積されにくい。このことが、大企業の採用が変わりにくい理由の一つです」

 おそらく、全ての経営者が人材の重要性を訴えている。しかし、実態はどうだろうか。「大企業の経営者の行動を見る限り、少なくとも、採用が最重要事項という意識は感じられません」と服部准教授は言う。