熱く、泥臭く、そして人間臭い集団

  工藤氏は入社2年後にMMA(三井マネジメントアカデミー)という研修に参加。その時、決定的に「人と向き合うカルチャー」を認識したという。

 「20数名が3週間泊まり込み、ビジネススクールのカリキュラムや、会社を理解するためのプログラム、そして社長から出題された課題に皆で取り組むというメニューです。しかし、なにより印象的だったのは集まった人たちの空気。熱さや泥臭さでした。とにかく、なにかにつけて議論をする(笑)」

  同じ企業の社員同士ともなれば、「なんとなく空気で物事が決まっていく」はずなのに、そうではない。些細なことでも意見を闘わせ、納得するまで語り合う文化があった。そうした結びつきに「学び」があり、その後の成長の糧になった、と工藤氏は振り返る。

「きちんと人と向き合ってコミュニケーションを取る。そのためには情熱が必要です。意外かもしれませんが、三井物産は情熱の会社です。そして、新しいことにポジティブでもある」

  ある時、担当した米国企業に問題が発生。工藤氏は、この企業が所有する工場へ出向き、「一緒に考え、解決したい」と上司に申し出た。商社マンが工場に行くというようなアプローチは、実はあまり一般的ではなかったという。

成長の源は「新しさ」を追い求める「情熱」

「しかも当時の私はまだ、入社半年くらい。普通は却下されますよね。なのに上司は二つ返事でした。『行ってこい』と(笑)。これが三井物産です」

  当初は農薬や肥料関連の企業の経営支援に携わった工藤氏だが、今はニューヨークを拠点に広く化学関連のビジネスにも関わるゼネラルマネージャー。しかし、今なお種々の交渉の最前線に立って、「新しい仕事」をハンズオンで「作り」「育て」ていきたいと語る。

  「新しい人と会い、新しいことを成し遂げていく努力。それがなによりも人を育てるというのが三井物産流の『人の生かし方』。情熱ある人間の伸ばし方を心得ているのです」

  人が人を育てる。その「当たり前」を積み重ねた伝統があるから、三井物産は今なお「新しさ」への情熱を保ち続けているのだ。