北野教授の専門は環境化学で、化学物質の安全性管理やリスクコミュニケーションを研究している。専門分野でも、「たとえばカドミウム排出量は0.08ppm以下、というように規制すると、企業は最低限の基準を守ろうとします。カドミウム排出の絶対量に税金をかけるとなると、企業は排出を極力ゼロに近づける努力をするようになります。環境政策は現在、最低レベルを規制する方向から、より効果の大きい経済的手法へと移行しつつあるのです」という。

「住宅における環境対策も同じこと。より人間の行動原理にかなった、つまりは合理的なおカネの使い方がなされる方向に、変わっていかねばならない時期に差しかかっています」

環境によい行動を
無意識に導き出す家

 これからの住宅は“見えないコストパフォーマンス”にも注意を払う必要がある。

「たとえば太陽光発電の導入に熱心な人が増えていますが、その反対にソーラーパネルの導入費用を計算して、なかなか元をとるのは難しいなどと主張する人もいます。しかし、どうでしょうか。自分のところで発電すると節電マインドが生じて、家族全員が省エネに励むようになる。その副次効果のほうが大きいといわれるくらいです」

 太陽光発電を導入すると、発電量が逐次把握できるうえ、毎月の電力消費と発電量の比較も容易になる。家庭におけるエネルギーの流れが“見える化”される、というわけだ。

「忘れてならないのは、人間は過ちを犯す生き物である、ということ。きれいごとを言っても理想どおりには行動しません。だからこそ、そこを機械で補っていくことが必要になります。たとえばセンサーを使った照明の消灯、節水型のトイレなど、新しいテクノロジーはどんどん取り入れていくといい」

 また、バリアフリーももちろん大事だが、日本人はなんでも極端に走る傾向があり、そこは熟考が必要と北野教授は警告する。

「お年寄りのために段差一つない室内を造り上げても、一歩表に出れば車道と歩道の段差はあちこちにあるわけです。子どものために安全を確保した室内も、行き過ぎれば子どもの心理的発達を阻害する可能性があります。転んで膝をすりむく程度のリスクは許容してバリアフリーを設計しないと、逆に弊害が出る恐れもあるのです」

 こうして見ると家を建てるということは、人の「生き方」そのものが問われる行為だともいえよう。

 いかに納得のいく「生き方」を選ぶか。長い目で見た取り組みが、今、求められている。

 
「週刊ダイヤモンド」10月30日号も併せてご参照ください。
この特集の情報は2010年10月25日現在のものです。