評価と処遇の一致

――事業主が緊急に取り組むべきことはなんですか。

 まずは、労使紛争は現出すると一挙に“緊急重要課題”になるという認識を持つことです。「資金繰りが先」と、職場で燻っている問題への対応を後回しにしたり、「時間が経てば解決するだろう」などと安易に考えたりするのが最も危険です。社長自らが経営リスクを拡大しているようなものです。転ばぬ先の杖です。

山岡正義/パートナーコンサルタンツ代表
兵庫県神戸市生まれ。大学卒業後、およそ30年間、商工会議所において経営指導員として活動。この間、約1万人の経営者と交流し、「経営は人である」と悟る。退職後、パートナーコンサルタンツを設立。その経験を生かして、経営を「人」の視点で読み解く経営を提唱し、コンサルティング、各種講習講演活動で全国各地を飛び回っている。

 何よりも「人は資産」という理念を確認し、問題があるならば話し合って解決する誠実な姿勢を貫かなくてはなりません。つまり、経営者の経営倫理の問題なのです。人が生き生きとして働き、労働者が相乗的に成果を生み出す、いわば掛け算が機能する組織こそが、収益の極大化という事業本来の目標への原動力になるのです。

経営的に未熟で労務の課題があるものの、なぜか問題が深刻化したり現出したりしない企業があります。それはなぜなのか。その秘密を解くキーワードは、「組織内コミュニケーション」です。決して、リスク管理型の規程の整備だけではないのです。

 現場の管理者には経営トップと共に労務問題を学んでもらう一方、部下の話を聞いたり様子を丹念に見るように求めます。具体的には、就業規則をこまめに改定して労働条件や環境を改善したり、「労使協議会」「労使懇談会」などを設置したりして、労務だけでなく経営方針、福利厚生など自由なテーマで意見を交わせる場を設けるべきでしょう。

 労使紛争は、従業員が10人以下の小規模事業所では、比較的起きていません。なぜなら、経営者の目が行き届き、評価と処遇が一致しているからです。処遇ができない時はねぎらいがあるからです。労使が一つになって顧客に尽くしているからです。また、創業から100年以上の長寿企業は日本に5万社ありますが、その半分は従業員10人以下の企業です。この事実が何を物語っているかについて、経営者は今一度よく考える必要があるのではないでしょうか。

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