日本のデジタル広告は、欧米と比較するとまだ市場規模が小さいといわれる。ところが、モバイルに象徴されるように日本では先端的かつ独自のデジタルコミュニケーション文化がじわりと浸透してきており、そのインフラを活用したマーケティング活動もさかんになりつつある。デジタルマーケティングの世界的な趨勢のなかでの日本のポジションは? グローバルなマーケティングカンファレンス「ad:tech(アドテック) tokyo 2011」を主催する武富正人氏に聞いた。

――日本のデジタルマーケティングは、世界的に見ると遅れているという指摘もあります。

ディーエムジー・イベンツ・ジャパン
ad:tech 日本法人
武富正人 代表
オリコム、NTTコミュニケーションズを経て、2010年、ディーエムジー・イベンツ・ジャパン 設立。ad:tech tokyo を主催する。Photo/K.Kurabe

武富 一部だけを見れば、その指摘も当たっているでしょう。というのも、デジタルマーケティングを考えるとき日本に欠落している点が二つあるからです。

一つが、グローバリゼーション。二点目は、デジタルテクノロジーの「使いこなし方」です。欧米では、デジタルテクノロジーを使いこなさなければいけないという意識が非常に高い。しかし日本では苦手意識が先に立ち、あきらめている人が多いように思います。そこが世界との格差です。

もっともこの違いは、ITのプラットフォームがほとんどすべて英語をベースにつくられていることから生じているという事実に拠るところが大きいのです。とはいっても、デジタルテクノロジーを使いこなさなければ、これからの日本社会は確実に衰退していきます。


――逆に、日本が進んでいる点はどんなところですか?

武富 バーコードや非接触式ICカードを使ったマーケティングは、欧米よりも発達していると思われます。総合的に比較すると、日本はアメリカに2年程度遅れているように思います。逆に言えば、2年の開きしかないわけです。

アメリカが進んでいるのは、「LBS(Location Based Services、位置情報)」と「動画」です。ただし、技術的には両方とも日本が得意分野としている部分です。とくに、クリエイティブは、日本のレベルは世界的にもトップクラスです。ですから、ほかの分野でもすぐに追いつくものと思われます。

また、日本でもデジタルネイティブ世代が世界に進出し始めているのはたしかです。若い世代が次の道を切り開いているといっても過言ではないでしょう。

じつは、クリエイティブ、モバイルインフラ、ユーザーのリテラシなど、日本独自のデジタル文化がじわりじわりと醸成され、ふたを開けてみると世界のどこにもない、完成度の高いデジタル社会をつくっていたことが、今、世界から評価を受けているのです。

――2012年には、スマートフォンがPCの出荷台数を上回ると予想されていますが、デジタルマーケティングの手法も変わるのでしょうか。

武富 デバイスだけはなく、マーケティングそのものが変わってきたのです。IT時代になって、マーケティングそのものがデジタルを活用する仕組みになっています。つまり、「マーケティング」イコール「デジタルマーケティング」なのです。

これからの時代は、マーケティングにデジタルを使いこなさないと世界に伍していけません。戦国時代でいえば、鉄砲が戦で活用されるようになると刀や槍だけでは勝てなくなった。それと同じような変革期にあるのが今の日本なのです。これまでのマーケティング手法にデジタルマーケティングという鉄砲をどう戦術に組み込んでいくかを考えることが不可欠なのです。