急速なスピードで少子高齢化が進む日本。単身や夫婦だけで暮らす高齢者が増え、核家族化やコミュニティの希薄化で子どもたちの人間関係も限定されつつある。誰もが孤立せず、幸せに暮らすには何が必要か──。解を求めて「多世代交流型住宅」にスポットを当ててみた。

各世代が、分離した
日常生活を送る現代社会

 近年、子育て世代とシニア世代が共に暮らし、相互交流を目指す「多世代交流型住宅」の開発が進んでいる。その背景には、世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進む日本の現状がある。

 2014年時点での65歳以上の高齢者人口は3300万人と、過去最高を記録。60年には、国民の約2.5人に1人が65歳以上となり、0~14歳の年少人口は791万人と、現在の半分以下に激減すると推計されている。このような社会の中で、人々の暮らし方にも変化が現れている。

「高齢者の単独または夫婦のみ世帯が過半数を超え、3世代世帯が減っています。誰かと会話をする機会も減り、孤独を深める高齢者も多いでしょう。また、子どもたちも祖父母や多くの兄弟姉妹の中で育つ経験を持てず、母子関係だけが緊密になる。母親たちは共働き世帯が増えているのに保育所も足りず、近くに頼れる人もいない。それぞれの世代が分離した日常生活を送ることを余儀なくされているのです」

 こう指摘するのは、白梅学園大学大学院名誉教授の草野篤子氏。日本世代間交流学会会長も務める、世代間交流学の第一人者である。

 草野氏は、世界各国の世代間交流プログラムを研究している。例えば、スぺインの「Live and Live Together」は、やや広めの自宅を持つ一人住まいの高齢者の家に、地方から上京した大学生を同居させるという取り組み。ペアの選定は、ソーシャルワーカーや心理学者なども参加して慎重に行われ、高齢者は家を、学生はサービス(病院に連れていく、買い物をする、週に1度一緒にご飯を食べるなど)を提供する。

「何組かの参加者にインタビューしたところ、『生活が楽しくなった』『誰かがいてくれて安心』など、高齢者の表情が明るいのが印象的でした。学生の方も、役に立っているという意識や責任感、連帯感が高まったと言い、同居高齢者を実の祖父母のように思っている様子がうかがえました」

 スウェーデンには「クラスのおじいちゃんプロジェクト」がある。高齢者が学校で子どもたちに勉強を教えつつ、おしゃべりをして交流するのだが、何を聞いても「親と先生に告げ口しない」という約束があるのがユニーク。子どもたちは安心していろいろなことを話すという。

 ほかにもさまざまな世代間交流プログラムがあるが、結果的には「とてもいい効果を生んでいる」と、草野氏。高齢者側には、自分たちがまだ社会で役に立てるという実感が持てる、心身ともに調子が良い、人間として尊厳が高まるといった効果があり、若い世代にも、前向きな目で高齢者を見ることができる、高齢者の知識や知見を吸収できるなどの効果があるという。