少子化が進み共働きが増える中、幼児教育に対する親の関心は逆に高まっている。より良い教育環境とは何か、正しい幼児教育とは何か、そもそも正解はあるのか?

正解は子ども自身が
見つけていく

恵泉女学園大学学長
大日向雅美

おおひなた・まさみ NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事。東京都立大学大学院博士課程修了(学術博士)。1970年代初頭のコインロッカー・ベビー事件を契機に、母親の育児ストレスや育児不安の研究に取り組む。専門分野は発達心理学。

 今、子育てや教育がとても特殊なものになっている――、そう危惧するのは、発達心理学の専門家で幼児教育に詳しい恵泉女学園大学・大日向雅美学長だ。

 かつて、親は生活に精いっぱいで、子どもは元気に育ってくれればそれでよいという風潮があった。その後、大学進学率が上がり、企業の終身雇用制が崩れたため、大学に行けば将来は安泰という筋道は描けなくなった。少子化に加えて先行きに不透明感がある中、今はただ教育熱だけが高まっている奇妙な状態なのだという。

 そもそも教育とは何か、その原点を大日向学長はこう説明する。「『教育(エデュケーション)』の語源であるエデュカーレという言葉には“引き出す”という意味があります。つまり教育とは与えるものではなく、子ども本来が持っている力を引き出すことなのです」。

自己肯定感の醸成こそ、
幼児期に一番重要なこと

 幼児期で最も大切なのは、親との安定したアタッチメントだという。心の安全基地をしっかり作ってあげることで、子どもは「自分は愛されている」「生まれてきて良かった」「(親は)何があっても守ってくれる」という感情を持てるようになり、そこからさまざまなことを「やってみたい」という意欲が生まれる。「愛するとは、子どもの発する信号に、適切に応答的に関わってあげることです。泣いたら抱っこしてあげるのはその一例。子どもは自分が発したメッセージが受け取られることで、有能感を持ち、それが自己肯定感につながります。その自己肯定感の醸成こそ、幼児期に一番重要なことなのです」と大日向学長。

 最近“褒めて育てる”のがブームになっている。大日向学長はこれも不安に思っている。褒めることが行き過ぎると、子どもは親の期待に応えなくてはと追い詰められることもあるからだ。またアクティブラーニングという言葉の独り歩きにも警鐘を鳴らす。積極性を前面に出すリーダーシップだけが評価され、心の中で育つ豊かな感情の大切さが疎かにされがちであるからだ。世の中には教育論があふれ、親にできることがたくさんあるように見えるため、逆に迷いも生じる。

 「子育てに、たった一つの正解はありません。正解は子ども自身が見つけていくものです。親は、その環境を整えてあげるだけでいい。幼児期にこそ焦らずに、生き続ける力を付けてあげてほしいのです」(大日向学長)