最近ファッションの一つとして、きものを気軽に楽しみたいという男性が増えている。だが着慣れないきものを、どう着こなせばよいのか?男きものの“先達”が指南する。

写真家
渡辺文雄氏

  普段、歌舞伎座で、歌舞伎役者を撮影する写真家・渡辺文雄氏は、50代になってから和装に目覚めた。休みの日は和装、仕事も撮影以外の打ち合わせなどではきものを着る。

 「母親が日本舞踊の師匠で、子どもの頃から稽古をさせられ、きものにはなじみがありました。ただしその後、洋服のオシャレに熱中、50歳を過ぎてからファインダーの中の歌舞伎役者のきものの美しさに、改めて心を奪われるようになったのです」。半襟や帯など、歌舞伎独特の色の合わせ方に魅せられて、自分も着てみようと思い立ったのだ。

 

きものを着ることで
癒やされる

 渡辺氏にとって、きものを着ることは、オンとオフの切り替えに役立つという。「とにかく和装をするとストレスが消え、癒やされるのが分かります。帯もウエストではなく腰骨で締めるだけなので、身体的にも楽です。前の晩に、明日のコーディネートをあれこれ考えるのも楽しい。和装で、京都など旅行に出掛ける楽しみもあります」。

 きもの初心者にとって、まず和装は“どこに何を着ていけばいいか”で悩む。きものの主な種類には、つむぎ・御召し・江戸小紋・黒紋付きの四つあり、大まかなTPOがある。だが基本的には「格式にとらわれず、その人の考え方でいい」という。

 例えば歌舞伎座の客席は和装の人が多いが、桟敷席に浴衣ではさすがに「よろしくない」。だが3階席なら浴衣でも構わない。冠婚葬祭も黒紋付きと決まっているわけではない。むしろ結婚式で新郎より立派な黒紋付きはふさわしくない。

きものの手入れも
和装の楽しみ

 渡辺氏はきものの手入れも、楽しみの一つだという。絹のきものは“悉皆屋(しっかいや)”という専門業者に頼むが、木綿や麻などの素材は自分で洗う。専用のネットで洗い、脱水後に一度アイロンを当ててから、きもの用のハンガーで本乾きにする。半襟も自分で長じゅばんに縫い付ける。こうした作業を面倒と思わず、楽しいと思えるという。

 きものを着慣れていない人へのアドバイスとして、渡辺氏は風呂上がりの浴衣を推奨する。

 「バスローブ代わりに浴衣を着れば、汗を吸ってくれるし、帯を締める練習にもなる」からだ。また麻のきものは夏に着ると、汗が蒸発する気化熱で涼しく感じる。和装はもともと日本の気候風土に合った装いなので、体に「とても優しい」のである。

 渡辺氏の知り合いで、IT企業に勤めるビジネスマンは、自分で毎週金曜日を「きものデー」と決め、和装で出勤。当初は珍しがられたが、やがて周囲もなじんだという。日々を楽しむアイテムの一つとして、きものを着こなす。やがてそれが人生の豊かさにつながるのだ。