古くなった住宅に新たな価値と魅力を生み出す、“長寿命リフォーム”が増えている。住まいの快適さを向上させるとともに、寿命を延ばす新しいトレンドについて、明海大学不動産学部の齊藤広子教授に聞いた。

「建替えよりリフォーム」
という選択肢

明海大学不動産学部
齊藤広子 教授

筑波大学第三学群社会工学類都市計画専攻卒業。不動産会社勤務を経て、大阪市立大学大学院生活科学研究科後期博士課程修了。英国ケンブリッジ大学土地経済学部客員研究員を経て、現職。

 従来、日本の住宅は平均30年強の寿命しかなかった。米国が50年以上、英国が80年近く使っているのに対し、非常に短いサイクルで建て替えられてきたのだ。そんな常識が今、少しずつ塗り替えられている。

「30年超の住宅ローンを支払い終わった頃に建替えが行われている日本の現状は、非常にもったいない。住宅を長持ちさせるメリットは、ローン地獄からの脱出、子世代に豊かな生活を引き継げること、高齢期まで安心して居住できること、成熟した景観や街並みの形成、環境に優しい社会など数多くあります」と齊藤広子教授。

 東日本大震災の教訓から、「住み続けるなら耐震改修を」と考える人が増えてきた。改修技術も進化している。耐震改修に際して、窓断熱などエネルギー改修も併せて行うと、別々に行うより費用や期間が抑えられるため、一緒に取り組むケースも目立ってきた。

 こうした大規模リフォームは、住宅の寿命を長持ちさせることに役立つ。

「大規模リフォームと言っても、ゼロベースで造る新築よりプレッシャーは少なく、コストも抑えられます。長期的な視野に立ち、長寿命リフォームを選ぶ人が増えてきたのでしょう」

リフォームが日本の
街並みまで変える日

 齊藤教授自身が住むマンションも、築30年近くたち、室内をリフォームする人が多いという。

「皆さん、リフォームに熱心ですよ。うちの近所の60歳を過ぎた女性は、ご自分の嫁入りだんすをバラバラにして、フローリング材として敷き詰めたと話してくれました。幸せな結婚生活をと願う親の気持ちがこもったたんすを、いつまでも使い続ける。その発想もいいし、そういうことを行う業者が出てきたということです」

 住宅を長く、安心して、快適に住み続けるための技術を各社が競うようになってきたわけだ。こうして「リフォームしやすい環境」が整うにつれ、社会も変化し始めていると、齊藤教授は指摘する。

「住宅が短命だと、スクラップ・アンド・ビルドの感覚で、建材や設備調度も安物が多かった。けれど、寿命が延びていくにつれ、同じ建材にしても『無垢のフローリングや木製の窓枠にしよう』など、最初からいいものを使う意識が広がってきています」

 1軒、また1軒と古い家がリフォームで生まれ変わるたび、よい住宅が増え、街の景観も向上する。そんな日が、もうすぐそこに来ているかもしれない。