失われた20年を経て、ようやく明るさが見えたかに思えた日本経済。だが、ここへ来て再び先行きが見えにくくなっている。どうすれば日本経済は再生し、活気を取り戻せるのか。ジャーナリスト、田原総一朗氏の講演「時代を読む」から、そのヒントを紹介する。

近江商人が実践してきた「三方善し」の経営

ジャーナリスト田原総一朗氏

 田原総一朗氏は、滋賀県彦根市の出身。近江商人の末裔だ。子どもの頃から祖母に近江商人の心得を教えられたものの、がめつくて、強欲でカネ儲けしか考えてないイメージが強く、好きになれなかったという。だが、社会人になってから近江商人の良さを見直すようになった。

「近江商人は何百年にもわたり、『三方善し』を経営の柱にしてきました。三方善しとは、まずお客さんにとって善しです。お客さんに信用されなければならない。次に、世間に善し。お客さんが集まってくる世間、つまり社会から信用されなければならない。そして自分にとって善しです」

 では、いまの日本はどうか。田原氏は「三方善しではない会社もある。三菱自動車は燃費試験で不正をし、東芝は粉飾決算を行った。つぶれて生まれ変わったJAL(日本航空)もかつてはサービスが悪く、客を客と思っていなかった」と指摘する。

 お客さんにとって善く、世間にとっても善い商売をしていれば、結果的に自分の商売もうまくいく。三方善しは、ビジネスはもとより、人生の指針ともなる教えだ。

仕事も人生も「ウン・ドン・コン(運鈍根)」

 田原氏が三方善しとともに祖母から教わったことに「ウン・ドン・コン(運・鈍・根)」があるという。

「ウンは運がいいかどうかです。では、どうやって運を引き寄せるかといえば、ドンになってコンになる。ドンは鈍感の鈍、コンは根気の根です。つまりバカになって要領よく立ち回ったりしない。そして、根気よく続けていれば運が開けてくるという教えです」

 これを実践し、成功した経営者がパナソニックの創業者である松下幸之助氏だと田原氏は続ける。

「松下幸之助さんに『あなたは部下を役員や関連会社の社長に抜擢するときにどこを見るのですか』とたずねました。『頭がいいか悪いかですか?』と聞くと、松下さんは頭のいい人は要領よく振舞おうとするから、幹部に適さないという。『では、健康かどうかですか?』と聞くと、それも関係ないという。松下さんは20歳のときに結核を患い、治りきっていないため、ご自身の経営を『半病人経営』と呼んでいました」

 健康な経営者は陣頭指揮を取りたがる。後ろを振り返ってみると誰もついてきていないこともありえる。ところが、半病人経営の松下氏は、後ろからついてくるから、全部見ているというわけだ。では、どこを見るのか。松下氏は「運だ」と答えたという。

「運がいいか悪いかは、仕事に対する対応を見ればわかるというのです。難しい問題にぶつかったときに、面白がって前向きに取り組めば問題は解決します。こういう人には運が向いてくる。一方、困難が起きたときに上司が悲観的になり諦めたら、全員が悲観的になってしまいます」

 まさに、近江商人の「ウン・ドン・コン」の教えに通じる経営といえるだろう。

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