「三大予備校」という呼び名は、なぜ終わったのか
難関大学の合格実績をめぐる競い合いからは、予備校のさまざまな側面が浮かび上がってくる。
ここでは予備校を「大学受験のための準備機関」と広く定義しておきたい。設置形態や教育方法は問わない。浪人か現役かにかかわりなく、また、一対一の個別指導、オンラインでの授業などさまざまなスタイルの教育機関も含めて予備校と捉える。
では、順番に見てみよう。まずは大教室で講師がマイクを握り、多くの浪人生に教えるオーソドックスなスタイルの「ザ・予備校」から……。
駿台予備学校は1918(大正7)年に誕生した。現在、14都道府県に33校舎がある。
河合塾は1933(昭和8)年に誕生した。15都道府県に26校舎ある(○○現役館などを除く)。2023年に広島県の1校が閉じている。
駿台、河合塾、代々木ゼミナールは長い間「三大予備校」と称されてきた。代ゼミは1957年に開校し、90年代まで全国18都道府県で27の校舎を作ってきた。
だが、2010年代に入って各地で浪人生の確保が難しくなり、2015年、代ゼミは一挙に19校舎を撤退させた(別の1校はそれに先立って閉鎖)。現在、本部校代ゼミタワー、札幌校、新潟校、名古屋校、大阪南校、福岡校、造形学校の6都道府県で7校が存続する。
代ゼミはこのところ大学合格者数を公表していない。
※以下のランキングはダイヤモンド教育ラボ編集部が作成
| 塾 名 | 2025年 |
|---|---|
| 駿台予備学校 | 1,351 |
| 河合塾 | 1,174 |
| Z会進学教室 大学受験部 | 1,063 |
| 東進ハイスクール・東進衛星予備校 | 815 |
| 鉄緑会 | 618 |
| 臨海セミナー 大学受験科 | 157 |
| グノーブル | 110 |
| 早稲田アカデミー 大学受験部 | 88 |
| SEG | 72 |
| 能力開発センター 高校部 | 55 |
| 研伸館 高校生課程 | 52 |
| 馬渕教室 | 31 |
| 能開センター | 31 |
| 英進館 | 29 |
| 進学プラザグループ | 27 |
| ※全57塾のうち上位15塾を抜粋。合格実績は各塾の公式HPで公表されている最新の数値(2025年7月調査時点)。なお、Z会進学教室 大学受験部は2024年度入試の合格実績が最新であり、その他は2025年度入試の合格実績である。( 塾予備校合格実績ランキングの詳細 を参照) | |
もちろん代ゼミも毎年、東京大、京都大、早稲田大、慶應義塾大、関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)に合格者を出している。しかし駿台や河合塾と競うほどの実績ではなくなっているため、今日では生徒数と合格実績の面で「三大」と称するのは難しくなった。
もっとも、長い歴史に裏打ちされた受験情報の蓄積では秀でているし、教科ごとのスター講師は健在だ。
駿台は難関国立大学に強く、代ゼミは早慶など難関私大文系学部の対策が得意で、河合塾は国公立、私立大学のバランスよく進学実績を伸ばしていた。2020年代、三校それぞれの持ち味が時代にマッチできたか、たとえば少子化や現役志向の高まりに対応できたかによって、三大予備校の運命が決まった感はある。
「いつやるか? 今でしょ!」――東進ハイスクールの急成長
代ゼミが全国展開を縮小する一方で、2010年代、難関大学合格実績を高めたのが東進ハイスクール、鉄緑会である。
東進ハイスクールは1971年に開校した。東京大出身の永瀬昭幸氏が野村證券を辞めて設立した「ナガセ進学教室」を起源とする。その後「東京進学教室」を経て、1978年に東進ハイスクールとなった。東進は「東京進学」の略である。現在、7都県に95校舎があり、系列の東進衛星予備校は全国に約1,000校ある。
東進の東京大合格者数は、2007年から22年まで右肩上がりを続けてきたが、それ以降、若干減っている。他の予備校の巻き返しやオンライン予備校の隆盛によるものだろう。
2010年、国語担当の林修氏が東進ハイスクールのテレビコマーシャルに出演して、授業シーンで放つセリフ「いつやるか? 今でしょ!」は一世を風靡した。東京大現役合格者数を約20年(2004年から23年)で倍増させた要因の一つに、林氏のコマーシャル効果があるといっていい。東進の名を全国に知らしめたからだ。林氏は今日までクイズ系の情報番組に出演し、東進のいわば伝道師役をつとめている。
東進ハイスクールには自前で育ったスター講師もいるが、駿台、河合塾、代ゼミから移籍し教壇に立った者も少なくない。東進はこうした有名講師の授業を全国の教室または提携校で受けられるシステムを確立し、受講生を増やした。それが合格実績につながっていく。
東進が掲げたビジネスモデル「地方」「小教室」「映像授業」によって、有名講師の授業をいつでもどこでも受けられるようになっている。少子化や過疎化が進み予備校がほとんどない地方の受験生にとってはありがたい話だ。こうして全国の受験生のニーズに応えられたことが、進学実績の急上昇につながった。
この「地方」「小教室」「映像授業」は、三大予備校の「都市部」「大教室」「集団授業」という受験教育ビジネスに対するアンチテーゼとなる。
2010年代半ば、東進ハイスクールの親会社ナガセは、「2020年代前半までにフランチャイズ1,500校、高校生の30%が受講」という強気な目標を掲げたが、実現していない。また、東京大合格者が2023年をピークに右肩下がりになっている。これは、中学受験塾からスタートした早稲田アカデミー、関西の馬渕教育グループが勢いをつけたからだろう。
鉄緑会が東大合格上位校の生徒を「選別」する
鉄緑会は1983年に東京大の学生によって設立された。名称の由来は、東京大医学部同窓会である鉄門倶楽部の「鉄」、東京大法学部自治会の緑会の「緑」を合わせたものである。2007年にベネッセコーポレーションの傘下に入った。
徹底した東京大中心主義であり、こう謳っている。
「講師陣は、東大卒の専任講師を中心とし、学力・人物・教え方を三本柱とした試験・面接によって厳しく選別され、ほぼ全員が東大生、東大大学院及びその卒業生から構成されています」「鉄緑会では原則として東大進学有名校に通う方のみを指定校生徒として受け入れており、さらに内部では学力別のクラス編成をしています」(鉄緑会ウェブサイト)
また、鉄緑会(東京)は、難関大学合格実績が高い15校を「指定校」としている。2000年代前半、この「指定校」には東京学芸大学附属、お茶の水女子大学附属、桐朋、武蔵、巣鴨、白百合学園が入っていたが、いまは外れている。これらに代わって渋谷教育学園幕張、渋谷教育学園渋谷、聖光学院、栄光学園が加わった。
鉄緑会大阪校は「指定校」の制度をとっていないが、通学生の在籍校には進学校がズラリと並ぶ。
この構造はじつにわかりやすい。予備校に在籍する生徒の出身校を大々的にセールスポイントにしたのは鉄緑会が初めてであろう。名指しされた学校の多くは戸惑っているようだが、喜ぶ学校もあった。鉄緑会のお墨付きをもらうことで、中学受験で優秀な生徒を集められるとふんでいるからだ。
開成、筑駒、桜蔭では在籍者が合格者の十数倍に
だが、多くは鉄緑会と距離を置きたいと考えている。通常の授業より鉄緑会の予復習を優先させる生徒がいるからだ。
2024年に東京大合格者100人を数えた聖光学院の、前年の在籍者は114人だった。中学生、高校1、2年生の会員を除けば、高校3年生の会員は100人を大きく下回ると考えられる。同年の開成、筑波大学附属駒場(筑駒)、桜蔭では、鉄緑会在籍者数が東京大合格者数の数倍から十数倍に達している。
聖光学院の会員数がさほど多くないのは、同校が鉄緑会教室まで1時間以上はかかるという利便性の悪さもあるが、予備校に行かなくても学校の受験指導で合格できると、生徒が信じているからだろう。
代ゼミを直撃したのは「浪人の減少」だった
東進ハイスクールと鉄緑会が、代ゼミのかつての難関大学合格者数をそのまま引き継いだという見方は正しくない。
代ゼミは2014年以降大学合格実績を公表していないが、2013年は東京大が369人、京都大が241人、早稲田大が2,212人、慶應義塾大が1,159人だった(『週刊ダイヤモンド』2014年3月1日号)。これらの合格者数は、十数年のうちに駿台や河合塾などの予備校に「吸収」された、あるいは、浪人そのものが減少したことが原因と見るのが合理的である。代ゼミは浪人が主力であり、現役中心の東進ハイスクールや鉄緑会とは重ならないからだ。
なかでも浪人の減少は代ゼミにとって大きな打撃となった。ほかの予備校に生徒を取られたならば、取り返せばいい……そんな強引ともいえる生徒集めを、かつて代ゼミは名物講師の引き抜きなどによって行ってきた。しかし母数となる浪人の減少となると、手の打ちようがないのである。
※本記事は転載にあたり、読みやすさを考慮して一部編集・再構成しています。
