スマホの影響は勉強時間の減少だけではない

 子どもの成績が下がる理由として、スマホによって勉強時間や睡眠時間が削られることがよく挙げられます。そのため、勉強を終えてからであれば、スマホやゲームを自由に使わせても問題ないと考える家庭もあるでしょう。

 菊池洋匡さんは、スマートフォンの問題は時間の使い方だけではないと説明します。東北大学と仙台市教育委員会の研究プロジェクトは、仙台市の学力調査などを分析し、平日にLINEなどの無料通信アプリを使う時間が長い子どもほど、学力が低い傾向を報告しています。睡眠時間や家庭学習時間だけでは説明できない可能性も指摘されています。

 勉強と睡眠の時間を確保していても、スマホを長く使うことで学習の成果が表れにくくなる可能性があるということです。単に勉強時間が減ったという理由だけでは、この結果を十分に説明できません。

 菊池さんは、スマホの利用による影響を、使用した直後に起こるものと、長期間の利用によって生じるものに分けています。子どもが長時間勉強しているのに成績が上がらない場合は、勉強量だけでなくスマホの使い方も確認する必要があります。

スマホの長時間利用と成績の関係

強い刺激による「過剰覚醒」が学習を妨げる

 スマホやゲームから強い刺激を受け続けると、脳が「過剰覚醒」と呼ばれる状態になると説明しています。これは危険に直面したときの「戦うか逃げるか」という反応に近く、緊張によって頭が真っ白になっているような状態です。

 危険が迫った場面では、脳はじっくり考える前頭前野の働きを抑え、体を動かして逃げたり戦ったりすることを優先します。命を守るためには適切な反応ですが、落ち着いて考える必要がある勉強には向きません。

 強い刺激を受けた直後に机へ向かっても、集中できず、学んだ内容が頭に入りにくくなる可能性があります。勉強時間を1時間、2時間と確保していても、脳が学習に適した状態でなければ、十分な成果につながらないという考え方です。

 特にゲームのように、自分の操作に応じて次々と反応が変わるものは、脳が興奮しやすいとしています。勉強の直前や就寝前は、ゲームなどの強い刺激を避けることが勧められています。

継続的なスマホ利用は脳の発達にも影響する可能性がある

 もう一つ挙げられているのが、長期間にわたる利用による影響です。東北大学の竹内光准教授・川島隆太教授らは、子ども224人を3年間追跡し、インターネットの利用習慣と脳の発達との関連をMRIで調べました。研究チームは、利用習慣が脳の広い領域や言語性知能の発達に伴う変化と関連していたと報告しています。

 菊池さんは、学習に必要な脳の発達が十分に進まなければ、勉強量を増やすだけでは、脳が成長している子どもに追いつくことが難しくなると指摘しています。

 一時的な過剰覚醒はスマホと距離を置くことで静まり、集中力の回復も期待できるとしています。一方、長期間にわたって進まなかった脳の発達を、短期間ですべて取り戻すことは難しいと説明します。長時間利用が習慣になる前に、スマホとの付き合い方を見直すことが求められます。

スマホをやめられないのは意思の弱さだけが原因ではない

 スマホやゲームをやめられない子どもを見ると、意思が弱い、自己管理ができていないと考えてしまうことがあります。しかし、アプリやゲームには、利用者が繰り返し使いたくなる仕組みが組み込まれていると菊池さんは説明します。

 菊池さん自身も、語学学習アプリ「Duolingo」に追加されたチェスの対戦機能を始めたところ、負ければ悔しくてもう一度、勝てばうれしくてもう一度と続け、気づいたときには朝になっていたそうです。睡眠時間が削られ、仕事も止まったため、危険だと感じてチェスの機能を削除しました。

 大人でも抜け出すことが難しい仕組みに、発達途中の子どもが意思の力だけで対抗するのは簡単ではありません。子どもを責めるのではなく、強い刺激や夢中にさせる設計にどう対処するかを考える必要があります。

 「あなたの意思が弱いのではなく、とても強い仕組みがある」と伝え、親子で一緒に脳を守る方法を考える姿勢が勧められています。子どもとスマホを対立させるのではなく、親子が同じ側に立って問題へ向き合う考え方です。

スマホ対策では意思の力に頼らない工夫が必要

一方的に取り上げる前に子どもの納得を得る

 スマホの使用を減らすために、親が強制的に取り上げる方法は、必ずしもうまくいくとは限りません。子どもが納得していなければ、隠れて使うようになったり、反発によって親子関係が悪化したりする可能性があるためです。

 場合によっては、「ゲームをさせてくれないなら勉強しない」と勉強を拒んだり、学校や塾へ行かなくなったりすることもあるといいます。また、スマホやゲームの時間を減らしても、その分が自動的に勉強時間へ置き換わるとは限りません。

 ルールを決める前に、スマホの長時間利用がなぜ自分にとって不利益になるのかを、子ども自身が理解する過程が必要です。親に言わされただけの約束ではなく、自分の言葉でルールの理由を説明できる状態を目指します。

 菊池さんの著書を読んだ子どもが、親から繰り返し注意されてもやめなかった、SNSや音楽を使いながらの「ながら勉強」を自分からやめた例も紹介されています。親が決めたルールを押し付けるのではなく、子どもの納得を先に得てから具体的な方法を決めることが大切だとしています。

利用目的・時間・置き場所を子どもと決める

 具体的な対策として、まずスマホやタブレットの使い方を目的別に分けます。調べ物、授業の受講、スケジュール管理など、目的が明確な道具としての利用は認めます。一方、SNSや映像を何となく眺め続ける使い方は、1日1時間未満にする、週末だけにするなど、範囲を絞ります。

 どのような使い方を認め、何を制限するのかについて、子ども自身が納得したうえで宣言する形が勧められています。親が誘導して言わせるだけでは、自分で決めたルールにはなりません。

 あわせて、スマホの置き場所も決めます。リビングに置き、寝室や勉強部屋には持ち込まないようにすれば、目の前にあるスマホを意思の力で我慢し続ける必要がなくなります。

 塾の生徒の中には、ゲームを自分ではやめられないと判断し、時間になったら取り上げてほしいと母親へ頼んだ子どももいたそうです。取り上げられる際には抵抗すると思うが、それでも返さないでほしいと事前に伝えていました。自分の意思が負ける場面まで予測し、周囲や環境の力を借りることも自己コントロールの一部です。

親子でスマホとの距離を調整していこう

 スマホの長時間利用には、勉強時間を奪うだけでなく、使用直後の過剰覚醒や、長期的な脳の発達への影響もあると菊池さんは説明します。利用を減らす際は、子どもの意思の弱さを責めたり、一方的に取り上げたりするだけでは十分ではありません。

 まず危険性について親子で認識を共有し、子ども自身が納得したうえで、利用目的や時間、置き場所を決めます。親自身にもスマホやゲームで時間を使いすぎた経験があれば、それを話すことで、子どもを責める側ではなく、一緒に対策を考える立場を示せます。

 完璧に守ることを求めるのではなく、守れなかったときにも方法を見直しながら、家庭に合った付き合い方を探すことが大切です。スマホとの距離を自分で調整する経験は、受験だけでなく、大人になってからも役立つ自己管理の力につながるとしています。

スマホやタブレットとの適切な付き合い方

(次ページに解説動画あり)