尖閣諸島沖で発生した日本と中国の対立は、政治問題に留まらず、日中間のビジネスにも深刻な影響を与えかねない事態へと発展した。中国をはじめ新興国の成長に依存する日本の経済モデルは、足許が揺らいでいる。今後、日本が中国と理解を深め合い、経済協力を続けていくためには何が必要か? それにはまず、中国の強硬な外交路線の背景に、不確実性に悩む“もう1つの顔”があることを、理解すべきだ。一方で、中国への過度な依存体質から脱却し、戦略的なビジネス・ポートフォリオを再構築する必要がある。(日本総研理事・主席研究員 呉 軍華)
アイデンティティ・クライシスに直面
自信満々の中国が持つ「もう1つの顔」
今回の尖閣諸島問題において、日中間の対立がここまで深刻化した理由を分析するためには、日本が中国の現状をよく理解しておく必要がある。中国の現状がわかれば、なぜこのような問題が起きたか、そして日本はこれから中国とどうやってつきあっていくべきかが、見えてくるはずだ。
現在の中国を語る上でキーワードとなるのが、「不確実性」だ。中国では今、かつてなく「不確実性」が増している。一口に中国といっても、今の中国の中には「2つの中国」が併存している。
ライジングパワーを誇る中国は、対外政策では強硬路線を続けているものの、国内では成長が頓挫しかねない不安を抱えている。そのため、自信満々の顔と自信不足の顔を併せ持っているのだ。
経済は金融危機後も何とか8%成長を維持したが、それに払った対価も大きかった。国内に経済格差問題などを抱えているため、それだけの成長を継続しないと安定維持に自信が持てない。
国内の実態は、「国富・国強」と「民窮・民弱」が表裏一体の関係にある。成長路線が本格化した1994年から08年の間までにGDPは6~7倍も拡大し、財政収支は30倍以上に拡大して、国は毛沢東の時代よりも強くなった。