世界経済に逆風吹きすさぶなか、中東の小国、カタールがひとり好調だ。IMF(国際通貨基金)の2009年実質GDP成長率予測(4月予測)では、対象182ヵ国中、断トツ1位の18%。さすがにこの数字は高過ぎるとの見方が多いが、他機関の予測でも10~15%と、BRICsや近隣湾岸諸国を大きく引き離す。
原動力は、天然ガスの輸出。その埋蔵量は世界2位、液化天然ガス(LNG)の輸出量では1位を誇る。天然ガス価格は昨年ピーク時から6月時点で約3分の1に下落しているのだが、「取引は長期契約が主であるため、原油に比べ影響が小さい」(ジェトロ中東アフリカ課の池田篤志氏)のだ。
この“ガスマネー”を元に、国内では活発なインフラ投資が行なわれている。「昨年秋以降、多少沈静化してはいるが、世界不況の影響はあまりない」(吉葉晃彦・丸紅環境インフラプロジェクト部副部長)。丸紅は早くから参画していたエネルギー関連に加え、送電線敷設と下水処理施設で昨年計530億円を受注した。今年3月に出張所を開設した三菱東京UFJ銀行によれば、「エネルギーだけでなく、通信や石油化学など至るところからビジネス需要が出てきている」(今井重紀・国際企画部中東北アフリカ部長)という。
世界不況の影響をまともに受けて失速したドバイと異なるのは、“実需を受けた投資”であることだ。02年に65万人だったカタールの人口は、今年165万人にまでふくれ上がっている。うちカタール人は20万人程度で大部分は海外からの流入だが、受け皿としてのインフラ整備は必須なのだ。
今後のカギを握るのは、言うまでもなくエネルギー価格の動向だ。カタールでは10年までに5基、12年頃までにさらに1基の巨大LNGプラントが稼働予定で、これらが稼働すれば世界のLNG輸出の3割を占めることになる。現在主力のアジア向けに加え、米国・英国などへの輸出拡大を目論むが、米英の場合は長期契約ではなくスポット取引が多いため、「今後2~3年は収益が上がらず、逆風となる可能性」(野神隆之・石油天然ガス・金属鉱物資源機構上席エコノミスト)もある。
だが世界的に、環境負荷が小さく石油よりも安価な天然ガスへのシフトが進んでおり、「長期的には需要は強含み」(野神エコノミスト)だ。“天然ガス大国”の強みは、ますます増しそうである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)