8月7日、日本の通信業界の“常識”を揺るがす強力な商品が発売された。
通信ベンチャーの日本通信が製品化したモバイル端末「b-mobile 3G」である。USBコネクタをパソコン(PC)に差し込み、接続ソフトをセットするだけで、簡単にインターネット(高速のデータ通信)が利用できる。
価格は3万9900円だが、これには、最初から150時間分の通信料金が含まれており、ISP(インターネット接続業者)との契約は必要ない。出張などで週に数時間だけ、ネットを使うライトユーザーに焦点を当てた。
ひと言でいえば、“プリペイド式の使い切り通信サービス”だ。ただし、「今秋には、通信時間をチャージできる“更新キット”も出す予定」(福田尚久・常務取締役)。
日本通信は、NTTドコモが所有する第3世代携帯電話用の通信ネットワークを借りて、サービスを提供する。そのような事業者を「MVNO」(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)というが、日本通信の最大の強みは“借り方”にある。
従来のMVNOは、既存の通信キャリアが所有する回線を「相対取引」で卸してもらって自社の顧客に通信サービスを提供している。個別の取引だから、貸す側がそれぞれの取引の内容を、第三者に開示する義務はなかった。
そんななか、日本通信はあくまで対等な条件の「相互接続」にこだわり続け、難航のすえに2007年11月に総務大臣の裁定を勝ち取った。これにより、NTTドコモに限らず、既存の大手通信キャリアは、門外不出だったデータ通信のコスト(接続料金)を“約款”にして第三者にも公表しなければならなくなった。
その意味では、日本通信が手にした可能性は、今回の新製品開発だけにとどまるものではない。
日本通信は相互接続を実現したことで、「電気通信事業法」に基づき、割安の「原価+適正利潤」の水準で商売できる。また、技術基準を満たしていれば、通信キャリアの試験を通さず、今回の新製品のように自己の判断で海外の端末を日本の市場に新規投入できる。つまり、既存の通信キャリアと同等の通信サービスを実現することができるようになったのである。
これまで、(1)端末、(2)通信サービス、(3)コンテンツの提供までを、国内の通信キャリアは一社単独でコントロールしてきた。だが、日本通信は、この「垂直統合」のビジネスモデルを“解体”し、下克上を引き起こす力を得たといえる。
たとえば、大手量販店チェーンが国内外から調達してきた多種多様な端末に、日本通信の回線を付与するといったこともできる。日本通信の創業者の三田聖二社長は、「世界最先端のブロードバンド大国である日本で、国内外の端末を自由に楽しめる環境を整備したい」と力を込める。
関係者によると、「すでに海外の政府機関や端末メーカーからの引き合いが急増している。加えて、通信機能の取り込みを目論む国内のデバイスメーカーのPC部門が水面下で接触を開始している」という。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨 仁)