最低限のコミュニケーションが
成立していない現実
高城 ビジネスコミュニケーション、特に上司と部下の関係を考えたとき、重要なポイントがあります。それは、モチベーションをいかに持続し強化するかという視点です。
中堅以上の世代には、小さな成果を上げたときいちいち上司から「よくやった」と言われると、「面倒くさい」と感じてしまう人が多いのではないでしょうか。私自身もそうですが、足かけ3年のプロジェクトが進行中のとき、途中のプロセスでいちいち褒めてほしくない。しかし、一方ではそれを必要とする人たちもいます。特に、若い世代には承認欲求が強い傾向があるのではないかと思います。
中村 私も、同じようなことを感じます。ただ、私や高城さんと同年代または上の世代にも、承認欲求の強い人を見掛けることがあります。もしかしたら、全体的にそういう人が増えているのかもしれません。
高城 とすれば、コミュニケーションの在り方も見直す必要があります。毎日のように部下を褒めればいいわけではありませんが、少なくとも「見ているよ」というメッセージは伝えるべきでしょう。
中村 同感です。しかし、実際には部下を見ていない上司が非常に多い。例えば、営業の日報です。部下が書いた日報を、営業所長やマネジャーの多くは読んでいません。読まれていないと知っているから、部下は嫌々日報を埋めているという状態。最低限のコミュニケーションが成立していないのです。現状のビジネスコミュニーションには課題が多い。
高城 確かに、営業日報の問題はよく耳にしますね。
中村 そうした課題を解決するために、私たちは「TEんWA」というビジネスチャットを開発しました。開発に至った最大の動機は、最近増えているうつを何とかできないかという思いです。その原因や解決策などを考えるうちに、コミュニケーションの問題にたどり着きました。
コミュニケーションのハードルを下げ、気軽にやりとりできる環境があれば、早い段階で「あいつ、最近ちょっと落ち込んでるな」と気付くことができます。コミュニケーションの傾向を形態素解析などで分析したり、今注目されているディープラーニングなどのAI技術を活用したりすることで、気付きを組織改善に役立てることができると考えています。
上司との折り合いで苦労している、あるいは今の仕事が自分に合っていないと感じている従業員がいれば、問題が大きくなる前に別の部署に異動させることもできるでしょう。社内の情報が風通しよく伝わるようになれば、ビジネスそのものにも好影響が及びます。
高城 好影響の一つは、「見ているよ」というメッセージが伝わりやすいことですね。
中村 おっしゃる通りです。上司が読まないのに、日報を書かせても意味がありません。チェックボックスだけのシンプルな報告にして、上司がスタンプだけ投げ返すほうが、部下としてはよほど「見られている」と感じられます。