尖閣諸島問題に限らず、近年の日中関係は政治面においてなにかと騒がしい。
だが、ビジネス面での結び付きは急速に進んでいる。
これからの中国ビジネスはどうなっていくのだろうか?
日中ビジネスのリアルな実態を知る知日派ジャーナリスト、莫邦富氏が語ってくれた。
“日本と中国はうまくいかない”……今、多くの人がそう思っているかもしれません。じつは私は1990年代に「日中関係悲観論」を声高に唱えてきました。しかし2010年の今、私はまったく違う考えを持っています。日本と中国のビジネスにおける関係は、これから急速に密になり、世界経済にも大きな影響力を備えていく、そう思うのです。
過去何千年ものあいだ、アジアは常に「1強」状態。つまり、成功国が複数並び立つことはありませんでした。戦後になってこの“1強”国となった日本は、いまや中国に抜かれようとしています。アジアのナンバーワンでなくなることを、過剰に悲観する論調もありますが、私はそうは思いません。これからのアジアは歴史上初めての“2強”時代を迎える。日中が共に経済的繁栄を分け合っていく時代が始まると見ています。
「中国と日本は歩み寄る」
その四つの理由
90年代における日本の貿易収支を見ると、約27%までもが米国を相手としたものでした。対中国は当時3.6%でしかなかった。ところが今、この数値は大きく変わっています。対米国貿易は13%に下がり、対中国貿易が20%を占めているのです。
確かに経済パワーは急成長した中国。しかし「経済成長のスピードにソフトパワーがついていけないでいる」との半ば自嘲する声を、中国経済界の多くから耳にします。中国の製造業は、OEM生産に依存した従来型加工賃ビジネスではなく、独自性の高いコア技術を手に入れることが課題とされています。そして、その課題達成のパートナーとして期待されているのが日本企業。角突き合わせている場合ではないのです。これが、第1の理由。
第2の理由は、今回の尖閣諸島(中国名は釣魚島)問題という嵐を見つめる日中双方の反応です。「早く政治的な摩擦を解消してほしい」との切実な願いを、日本では企業のみならず、中国人観光客の誘致などで地域活性化を目指す自治体が抱いています。同時に、中国でも同様の焦りを多くの企業経営陣が抱いています。民間レベルではすでに日中関係を密にしようという心理が根を下ろそうとしている証拠といえます。
第3の理由は、日本の現政権が外交経験に乏しかった点。経験さえ積めば、付き合い方を心得てくるのでは、という期待です。さすがにこれ以上は初歩的な対応ミスを繰り返すことはないでしょう。