第4の理由は、中国人観光客の急増による副産物です。これまで多くの中国の民衆は海外に出てその実態を見る機会が少なかった。しかし経済成長のおかげで、今はたくさんの人が日本を訪れ、その実態を肌身で知っています。日本政府も、2020年までに訪日観光客を年間2500万人にまで増やそうと施策を打ち始めています。達成するためには、中国からの観光客で3分の1を獲得しなければならない、とも考えています。人の交流が盛んになれば、おのずと両国の関係も接近するに違いないのです。

中国の内需優先志向を、
日本の追い風にすべきとき

 中国に限ったことではなく、一つの国が経済的に発展するうえで、最初に迎える段階は対外的経済活動の重視です。中国は、今この段階から次への一歩、内需掘り起こしという段階に踏み出しています。

 リーマンショックによる世界経済の停滞は、中国のこの動きに拍車をかけました。海外資本に依存した状態が続けば、経済発展も危うくなることを学んだのです。10年前、20年前に比べ、中国の消費者層も格段に豊かになり、国内消費市場の充実を望んでいます。そうして加速した内需志向が、じつは日本にとって追い風になるかもしれません。いや、「追い風にしなければいけない実情がすでに突き付けられている」と言ったほうがいいでしょう。なぜなら、欧米諸国よりも距離的に圧倒的優位に立つ日本が、すでに大きく遅れをとっているからです。

 先に発展をした沿岸地域に続き、いまや世界の注目は中国の内陸部に向けられ始めています。

 フランスのカルフールや米国のウォルマートなど、並み居る欧米大手流通企業が内陸部の消費者をターゲットに出店をしています。にもかかわらず、日本企業の進出は数えるほど。この残念な状況をひっくり返すには、今しかチャンスはないのです。

 日本の企業関係者のなかには、この問題点、このチャンスに気づいている人も少なくありません。いかに中国の内需をビジネスチャンスにするか、が直近の課題。
問題は、政治家やマスメディアなどの論調を占める、いまだに「日本のほうがすべてにおいて優れていて」「自分たちだけが与える存在、教える側」という誤解。もはや「アジアにおける日本」の存在価値は1強時代のように圧倒的ではありません。2強時代に成功するためには、「中国を学ぶ」「中国から学ぶ」姿勢が不可欠。中国は日本のソフトパワーを学び、日本は中国のスピードに学ぶ。これが双方の成功する道だと私は信じています。

 中国からの観光客誘致において、山梨県や北海道などは早くから施策を打ち出して、観光客数を伸ばしています。ほかの地方自治体も「どうすれば中国の人が魅力を感じてくれるか」を探り始めています。地方は真剣になっています。

 中国と日本というアジアの2強が、互いに歩み寄り、互いから学び取ることができたならば、日中関係は間違いなく世界の経済へ強大な影響力を備えることができるはずです。政治的な摩擦などは、「歴史上例のない2強時代」が到来したことによる産みの苦しみにすぎない、と私は考えています。

 大切なのは、そうした摩擦に惑わされることなく、今のビジネスチャンスを生かすスピーディーな決断や実行。これを達成できた企業と自治体が、2強時代の成功を手にすることができるのです。
 

週刊ダイヤモンド」12月11日号も併せてご参照ください
この特集の情報は2010年12月6日現在のものです