社会やビジネスにイノベーションや強いインパクトを創出するには、優れたリーダーが不可欠。ソーシャル・イノベーションの研究を続けている一橋大学の米倉誠一郎教授と、創業以来リーダー育成に力を入れているアメリカン・エキスプレスのロバート・サイデル日本社長が、リーダーシップについて語り合った。

米倉 アメリカン・エキスプレスは、「明日のリーダー育成」を掲げ、リーダーシップ育成に力を入れていますね。なぜサイデルさんたちは、リーダーシップにこだわるのか、また御社が考えるリーダーシップとはどういうものでしょうか。

サイデル 今、世の中には新たなイノベーションが求められており、そのためには優れたリーダーが不可欠。あらゆる組織に共通するニーズかもしれません。
私たちは、リーダーシップは一部の人だけが持つものではなく、一人ひとりが持つべきものだと思っています。誰のなかにもリーダーの資質はあり、訓練することでそれを伸ばすことができるのです。

部下のリーダーシップを
育てる責任

米倉誠一郎 一橋大学イノベーション研究センター長/教授。一橋大学社会学部、経済学部卒。同大学院社会学研究科修士課程修了後、ハーバード大学にて歴史学の博士号を取得。イノベーションを核とした企業の経営戦略・組織の歴史を研究。2008年より現職。

米倉 では、アメリカン・エキスプレスではそのリーダーシップをどのように育成しているのですか。

サイデル 当社にはリーダーシップ育成のさまざまなトレーニングプログラムがあり、すべての社員にそれを受ける機会があります。なかでも重要視しているのが、上司が部下のリーダーシップを育成する責任です。
部下の成長過程を知るためには、コミュニケーションが大切。当社には多様な国籍、文化を持つ社員がいますが、こうした多様性のなかでお互いを理解し合うことが非常に重要です。

米倉 日本では多様性の欠如が企業・組織の発展を遅らせ、近年、日本の存在感を弱めていることに繋がっていると感じます。グローバル化の現在において、われわれ日本人だけが集まってなんでも自前主義でやっていく時代など、とうに終焉を告げられていると思います。

サイデル 多様な考えが存在し、違う考えを受け入れる組織づくりは非常に重要ですし、それが組織の力となります。チームワークは大変価値のあるものですが、時に最善のアイディアはチーム外の人からもたらされることも。多様性とは組織を助ける、イノベーションは多様性から生まれる、と定義してもよいほどです。

NPOにも優れた
リーダーが求められている

ロバート・サイデルハーバード大学ビジネススクール卒業。1984年、アメリカン・エキスプレス(米国)入社。88年に来日し、カード事業部門業務担当副社長に就任。タイ代表を93年~2000年務めた後に、再来日し、01年より現職。

サイデル さらに当社では、リーダー育成の対象を社外にも広げ、2年前からNPOリーダーの育成プログラム『アメリカン・エキスプレス・アカデミー』を発足させました。
米倉 今、社会問題の解決に取り組むNPOには大きな期待が寄せられています。しかし、多くのNPOスタッフは社会貢献への意識は高いものの、ビジネススキル不足が課題です。NPOこそ優れたビジネスリーダーが求められているのです。また、NPO同士のコミュニケーション、ネットワーク不足という問題もあります。ここでも多様性が不足しています。
そうした課題を抱えるNPOのリーダーたちを支援したいと考え、私自身も監修兼、講師としてこのアカデミーに協力しています。
サイデル アカデミーでは、リーダーとしてのマインドとスキルを講義やグループワークを通じて学べる、さまざまなプログラムを提供しています。参加者の満足度も非常に高いです。

米倉 スキルの習得はもちろん、お互いのネットワークができたことが参加者の大きな財産になったと聞いています。プログラムを終了した卒業生同士が定期的に同窓会を開いていますね。

サイデル NPOリーダーたちのネットワークが広がるきっかけをつくれたことは、当社としても非常に嬉しく思っています。

米倉 今年の9月に開かれた、社会貢献を志す若者を応援するイベント『世界を変える一〇〇人になろう』をサポートしたのも、「明日のリーダー」を育成するためですね。今、若者のあいだには社会企業家やNPOへの関心が高まり、そうした仕事に就きたいと考える人が増えています。