「重要なのは、“他社並み”ではなく、“わが社ならでは”の福利厚生です」と、西久保教授。必要な策は、業種・業態や従業員の特性によっても異なる。たとえば、短期集中型の勤務が多いゲームソフト制作会社では、シャワーや24時間利用できるカフェ、仮眠室などは必須。日々の技術進歩が著しいIT業界では自己啓発やストレス解消が大きなテーマだ。

図2  三次元での制度編成の最適化
西久保(2004)『戦略的福利厚生』 (社会経済生産性本部生産性労働情報センター)

「制度設計では、戦略特性、事業特性、人的資源特性の三次元で最適化を図ることが求められます(図2)」と、西久保教授は主張する。場合によっては、自社のハイパフォーマーに焦点を当て、その人たちが働きやすい環境をつくるように制度設計することも求められる。

従業員の不安解消が
ES向上につながる

 今後注目されるのは、育児や介護のバックアップだろう。「共働きが当たり前の時代にあって、ハイパフォーマーが育児や親世代の介護に追われるリスクは目に見えています。その対策は企業に必須となるでしょう」。

 さらに、公的年金への不安から、セカンドライフに向けた資産形成のサポートも重要な課題となっている。「将来のための資産形成に社内制度を利用する従業員が多い企業は、従業員の定着率が高い傾向にあります」と西久保教授は言う。従業員の不安解消により、企業へのロイヤルティ向上も期待できる。

 非正規従業員に対する福利厚生策も見逃せない。コスト削減が重要な課題とはいえ、優秀な人材の確保は欠かせない。ベテラン非正規従業員の存在感も増している。「ある小売業では、カフェテリアプランの付与ポイントを正社員の2~4割として、調整を図っています」。ビジネスモデルに応じて、非正規従業員も含めたES(Employee Satisfaction:従業員満足)向上に力をつくすことが、企業価値の向上にもつながる。

「業績連動型賃金制度の普及で労働の対価性が明確になるなかで、給与は従業員定着のインセンティブになりにくくなっています。そのなかで、福利厚生制度の果たす役割は相対的に重要性を増しています」と、西久保教授。アウトソーシングなどをうまく活用しながら、自社らしい福利厚生策を充実していくことが、なにより求められている。

週刊ダイヤモンド」2010年12月25日・2011年1月1日合併号も併せてご参照ください
この特集の情報は2010年12月20日現在のものです