コミュニケーション手段の多様化とともに企業のマーケティングも大きく変化している。「ニューロ・マーケティング」や「エスノグラフィック・マーケティング」など、最先端のマーケティング手法とはどんなものか。また、新しいマーケティング手法を活用してプロモーションの効果を高めるには。一橋大学大学院・阿久津聡教授に聞いた。

 かつてマスメディアが中心だった企業と消費者のコミュニケーション手段は、インターネットやモバイルの登場により、一気に多様化した。企業のマーケティングも、マスからパーソナルまで含めて展開しなければ通用しない時代になっている。

 近年特に重要になってきたのが、個々の顧客の心理をより正確にとらえることだ。これまでもアンケートやグループインタビューなど、消費者の心理を探る調査は行われてきたが、製品開発が失敗に終わるケースは増えている。原因は、消費者自身が必ずしも意識して判断をしておらず、無意識に何かに影響されていることがあるからだ。

脳の動きから
消費者の行動を理解する

阿久津 聡一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授
あくつ・さとし。国立情報学研究所客員教授。一橋大学商学部卒。同大学大学院商学研究科修了。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院 MS(経営工学修士)・Ph.D.(経営学博士)。同校研究員、一橋大学商学部専任講師などを経て現職。専門は、マーケティング、消費者心理学、ブランド論、行動経済学、交渉論。

 こうした問題を解消し、顧客自身が気づいていない視点を発見する新しい手法が注目を浴びている。その一つが「ニューロ・マーケティング」だ。マーケティング、消費者心理学などを専門とする一橋大学大学院の阿久津聡教授はこう説明する。

「脳科学のアプローチで消費者の無意識下の行動を探ろうとするのがニューロ・マーケティングです。実験協力者に広告を見せて、商品を消費してもらうなどして、その時の脳波や血流を測定し、消費者が何に反応しているのかを推論するのです」

 たとえば、よく似た味でブランド名の異なる二つの飲料を被験者の前に用意し、ブランド名を伏せた場合と明らかにした場合で飲み比べをさせ、評価がどう変わるかを探った調査がある。結果はブランド名を明らかにすると、伏せた時に比べて、一方のブランドを選好する人が増えた。被験者の脳の活動を調べたところ、選好の高まったブランドでは特に、ブランド名が知らされると脳の特定部位が活性化したという。このことから、ブランド名がどのように選好に影響を与えているかさらに深い洞察を得ることができる。

「ニューロ・マーケティングは先進的な企業で活用されはじめて効果を上げていますが、反面、プライバシーの侵害などの問題も懸念されます。慎重な議論をしながら方法を確立していく必要があります」(阿久津教授)