先進的なマーケティング調査が
身近にできる時代

 無意識下の行動を観察する手法はほかにもある。たとえば、米国で多くの消費財メーカーやIT企業が取り組んでいる「エスノグラフィック・マーケティング」。リサーチャーが数日間にわたり消費者の日常生活に密着し、一緒に食事や買い物をしながら観察し、本人も気づかないニーズを探るというものだ。

 また、ゴーグル型カメラを装着して視線の動きを追跡する「アイトラッキング」を使えば、消費者が広告やウェブサイト、店舗デザインのどこに注目しているか探り出すことができる。モバイル端末とGPSの技術を活用した「LBS(位置情報サービス)」を使えば、消費者の行動を探るだけでなく、企業側からの情報発信にも効果がある。

「各種技術の発達により、新しいマーケティング手法が登場したり、従来の手法がより低コストに利用できたりするようになりました。しかし従来と変わらないのは、マーケター自らの洞察に基づいて仮説を立てて、データを集めて検証し、検証された仮説に基づいて広告や販促といったマーケティング活動を実践するという継続的なプロセスの大切さです。仮説を立てるための観察手法の精緻化や、検証のためのデータ収集の容易化・低コスト化などによって、仮説・検証・実践のサイクルを仕組み化できる企業とそうでない企業で、マーケティング力の二極化が、今後は進むのではないかと思います」(阿久津教授)

重要なのは仮説の立案と検証
そして実践のサイクル

 最新のマーケティング手法というと、予算の潤沢な大企業だけの話のように思えるが、そうではないと阿久津教授はいう。

「インターネットを活用すれば、低予算で手軽に調査が行えます。また、アクセス解析やサイト上での行動分析をすることで、どんなデザインや文章が効果的か、ユーザーはどこに注目しているかといったデータが得られます。日々の販促活動と併せて実践すれば追加的なコストはあまりかかりません。しかし、この場合も仮説・検証・実践のサイクルを、意識して計画的に行わなければ、高い効果は望めません。リアルなビジネスでも同じです。顧客の視線や動線をつぶさに観察し、それに基づいて仮説を立て、更に観察を続けて仮説を検証していくことによって、さまざまな知見が得られるはずです」

 脳科学や人類学、モバイル・ITなど、多様な領域の知識を採り入れ、これまで見えなかった消費者の姿を浮き彫りにする手法が登場しはじめている。企業には、これらを自社の戦略にどう生かすか、知恵と実行力が問われることになるだろう。