かつてサービスといえば接客業に限定したものというイメージがあったが、時代の移り変わりとともに、あらゆる職業にサービスが求められるようになってきた。
個人や企業はどのような努力をすればよりよいサービスを提供できるのか。本当に上質なサービスとは何なのか。究極のサービスを提供する“達人”たちに密着、サービスの極意に触れてきたノンフィクション作家の野地秩嘉氏に聞いた。

野地秩嘉 ノンフィクション作家
のじ・つねよし。1957年東京都生まれ。美術展のプロデューサーなどを経て、現職に。著書に、『サービスの天才たち』(新潮社)、『ヨーロッパ食堂旅行』(ダイヤモンド社)、『TOKYOオリンピック物語』(小学館)、『日本一の秘書―サービスの達人たち』(新潮社)などがある。

 “お客の求めるものを提供する”という意味では、いまやほとんどすべての業種がサービス業といっても過言ではない。どんな仕事においてもサービスを求められると考えると、重要視されるのは、やはりその中身だろう。

『サービスの達人たち』などを執筆、サービスを提供する人びとを長年にわたって取材してきたノンフィクション作家・野地秩嘉氏もこう語る。

「今の時代、商品はどこで買ってもだいたい同じ。値段もあまり変わらないとなると、その売れ行きを左右するのは、サービスだと思うんです。たとえば、壊れたらすぐ修理に向かうとか、マニュアルを読みやすくするとか。かつて日本の工業製品の質が向上したのは、海外では国内のようにサービス網が行き届いておらず、すぐに修理ができないという事情を考慮し、なるべく壊れないよう作ったから。それもまたお客の気持ちを考えたサービスです」

 一口にサービスといっても、その内容は千差万別。同じサービスでも、人によって受け取り方が違うため、大多数の人が満足するであろう、いわゆるマニュアルサービスが取り入れられがちになるが、野地氏はそれだけでは良質のサービスとはいえないという。

「日本人が本当にいいと思えるサービスとは、一律のサービスよりも、相手を喜ばせようとするサービス。僕が取材してきた人たちも、おカネとか名誉のためではなく、目の前にいる人のためになにかやらずにはいられなくてやっているんです。それが心を打つからこそ、顧客が増える。そういった情緒的なサービスも考え出していく必要があるのではないでしょうか」