3月中旬の土曜日、東京・渋谷クロスタワーのイベントスペースに、首都圏在住の52人のビジネスパーソンが集まった。イベントの名は「和歌山県プロフェッショナル人材 UIターンキャリアフェア」。約3時間、和歌山県に本社を置く企業のプレゼンテーションや個別説明会が行われ、会場では熱心にメモを取る参加者の姿があった。参加者を惹き付けているのは、和歌山県のどのような魅力なのか、会場の様子をレポートしてみる。

3月18日、東京渋谷区で行われた「和歌山県プロフェッショナル人材UIターンキャリアフェア」の様子。参加者は52人、関係者の話にみな熱心に聞き入っていた

UIターンで
攻めの経営への意欲を喚起する

 今、和歌山県では“和歌山県プロフェッショナル人材戦略拠点”を軸に、首都圏で働くビジネスパーソンの「UIターン」の促進に力を入れている。プロフェッショナル人材とは、マネジメント等の豊富なキャリアを積んだ30〜50歳代の企業勤務経験者のことだ。

「和歌山県プロフェッショナル人材戦略拠点の取り組みについて」話す、植田俊マネージャー

 和歌山県には、あまり知名度はないものの、優れた技術を持ちグローバルに事業を展開する優良な中堅企業が数多く存在する。和歌山県ではそうした中堅企業に、キャリアや実績を持つプロフェッショナル人材の採用を促して“攻めの経営”への意欲を喚起、成長戦略を具現化し、県内の産業を活性化させようという狙いがあるのだ。 

 「もともと和歌山県は、農林水産業はもとより製造業が盛んで、従業員一人あたりの製造品出荷額は全国第4位。鉄鋼・石油・化学で全体の75%を占めるが、産業構造の多様化と雇用の拡大を図るため、企業誘致やベンチャー支援にも力を入れている」、そう語るのは、和歌山県プロフェッショナル人材戦略拠点の植田俊マネージャーだ。

 ほかにも住宅地価格が安い、通勤時間が短い、持ち家比率が高いなど、和歌山県には暮らしの面でのメリットも大きい。

講演では、「ものづくりの理想郷―和歌山県で働くことの魅力とは」と題して、和歌山の蔵元、平和酒造・山本典正代表取締役専務が自らの体験談などを語り、会場を沸かせた

 当日ゲスト講演を行った、平和酒造(和歌山県海南市)の山本典正代専務は、和歌山県で働くことの魅力を、「衰退産業でもモチベーションや組織を改革することで、未来を変えることができる環境がある」と説明する。同社では、酒造が難しいと言われていた和歌山県で梅酒を軸に発展、昔ながらの蔵人の意識改革を行うことで成長を続け、昨年の「酒—1グランプリ」では同社の日本酒「紀土(きっど)」がグランプリを受賞した。今では新卒を募集すると、首都圏などから2000人近い応募がくるという。

グローバルに事業を展開する
中堅企業が多い

 今回、プレゼンテーションに参加したのは、和歌山県に本社を構える5社。その内容を簡単に紹介したい。各社の事業内容は、そのまま和歌山県の魅力につながるだろう。

 「アクロナイネン」(和歌山市)は、自動車・2輪車・農機・産機向けの、最先端の精密ダイカスト製品の製造を行う。これまで大手メーカーを中心に製品を提供してきたが、中小企業から優良企業への脱却を目指し、海外展開を含めた事業拡大を進めている。募集するのは、次代の中核となる人材、または海外子会社の経営を担える人材だ。

 「シティコンピュータ」(和歌山市)は、データエントリーサービスを主軸に、人材派遣部門や医事コンピュータの販売・サポートなどを手掛ける。フィリピンやバングラデッシュに支社を持つなど、事業はグローバルに展開している。創業30年を迎えた今、第二創業期として攻めの経営を目指し、さまざまな分野で共に飛躍できる人材を求めている。

 「溝端紙工印刷」(伊都郡かつらぎ町)は、明治40年創業、箸袋やナプキンなどの飲食関連業界向けの紙製品でシェアNo.1を誇る会社である。国産の材料を、国内にある自社工場で製造、メイド・イン・ジャパンの品質にこだわっている。募集する人材は、工場管理職や営業、品質管理などの分野で、定着してもらうため「和歌山県出身者」を望んでいる。

 「吉田染工」(紀の川市)は、ニット・織物・資材用糸の染色加工を専門とする会社。世界で無二の全自動染色プラントを持ち、チーズ染色や、30万色以上の色彩管理、多品種・小ロット・短納期に対応できる強みを持つ。現在下請けから提案型企業への脱却を目指し、東京事務所の所長や本社営業部を統括できる人材を求めている。

 「和歌山太陽誘電」(日高郡印南町)は、グローバル企業である太陽誘電グループにおける積層インダクタの生産ヘッドクオーター機能を持つ子会社。事業戦略の立案・開発拠点としての役割を持ち、さらなる企業体質の改善と成長戦略の遂行のため、電子部品の商品開発・システム開発、IoT推進などの分野で高いスキルを持つ人材を募集している。

◆企業プレゼンテーション

企業プレゼンテーションは各社7分の持ち時間で、自社の特徴や強み、どんな人材を求めているかなどを語った

アクロナイネン 新谷理
常務取締役
シティコンピュータ
川原雅友
専務取締役CFO
溝端紙工印刷
溝端繁樹
代表取締役社長
吉田染工
吉田篤生
代表取締役社長
和歌山太陽誘電
日置一壽
管理部次長