今回の大震災では、高度で高効率なサプライチェーンが寸断され、事業を停止せざるをえなかった企業も多い。事業継続性の強化は、大きなテーマとして浮上している。また、風評リスクやITのリスクも注目を集めた。多様なリスクに対していかに備えるか、改めてリスクマネジメントが問われている。

慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
大林厚臣

おおばやし・あつおみ。行政学 博士。京都大学法学部卒。日本 郵船勤務後、シカゴ大学で行政 学博士号を取得。慶應義塾大学 大学院経営管理研究科専任講師、 助教授を経て現職に。現在、内 閣府事業継続計画策定促進方策 に関する検討会(座長)などの 政府委員を兼任する。

 東日本大震災によって、この国の産業基盤は大きなダメージを受けた。事業停止に追い込まれた企業も少なくない。このような被害を前にして、日本企業はリスクマネジメントの再考を迫られている。その際の考え方について、慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授の大林厚臣氏はこう指摘する。

「リスクマネジメントの基本は予防で、これが最上策です。そのためには何が起こるかを予想する必要がありますが、想定外のことは必ず起きる。また、予想できる事態に対して、すべての事業者が十分な予防策を実施できるわけではないでしょう。とすれば、被害を防げなかったときの対応を考えておく必要があります。このような2段階の構えが求められます」

 1段目は被害を予想したうえでの予防策、2段目は被害を最小化する対策。今回はやむをえない面もあるかもしれないが、残念ながら、両面での対策が十分機能したという企業は少ない。震災からどのような教訓を引き出し、どのように生かすかが問われている。

企業の供給責任とリスクに強いサプライチェーン

 まず、サプライチェーンの見直しは避けられないテーマだ。自社工場は復旧したけれど、部品が届かないために生産できないといったケースが数多く報告されている。事業継続性の高いサプライチェーンを、再検討している企業は多い。

 下図は被害の連鎖を示したものだ。災害や事故などにより社会インフラや事業所が被害を受け、出荷やサービスの停止に至る。その対策について、大林氏は二つの方向を提示する。

災害などをきっかけに、さまざ まな被害が重なり合い、想定外の問題が顕在化する。予防対策 は上流で、事後対応では下流に働きかける施策が求められる
出所:大林厚臣慶應義塾大学大学院教授の資料より作成

「予防は上流、事後対策は下流で、というのが望ましい対策です。たとえば、火災原因となる燃料タンクを丈夫なものにする、あるいは燃料そのものを使わない仕組みにすれば火災のリスクは減らせます。上流での対策は、より費用対効果を高められます。一方、被害が起きたときには、顧客に近い下流での対策を考える必要があります」