大企業にいながら
ベンチャー的な経験を積む場

 企業は大きくなればなるほど、一人一人のタスクは細分化され、課題もきっちりと決められてくる。効率の良い分業体制ではあるが、課題が決められていないと動けない人間が育ってしまう背景にもなりやすい。

 その点、被災地でソーシャルの現場に放り込まれた場合は、何をすべきかは自分で決めなくてはならない。「がれき撤去作業をやってほしい」「物品の支援をお願いします」という依頼があってそれに応えるというフェーズはすでに終わっており、「この地域をどう復興していくか」というような曖昧模糊とした状況からのスタートになる。

 自分の存在意義が常に問われる厳しい環境ではあるが、何もないところから新たなものを生み出していくという課題は、型にとらわれずにものを考える鍛錬となるだろう。

 また、あらかじめ決められた職分にのっとって仕事をこなすのではなく、目の前の状況に応じて何にでも手を出してみるという仕事の仕方は、ベンチャー企業で経験を積むことに似ている。大企業から派遣されてきた人材は、大企業とベンチャーの両方の働き方を経験することでさらに大きく成長できるだろう。

 もちろん、ソーシャル領域にとっても民間企業から人が入ってくることは単に人手不足や人件費の助けになるだけではなく、大きなメリットがある。

 ソーシャル領域の課題解決の現場はボランティアやNPOが担っていることが多く、どうしても「できる範囲で無理なくこつこつと」という動きになり、なかなか大きな成果に結び付きにくい。行政が行う事業も、本連載第1回で紹介したように、納税者への説明責任を果たそうとするあまり、プロセスの監視に重点が置かれるケースが多い。

 しかしビジネス領域の人間は、結果が出てなんぼの世界で生きてきている。いくらプロセスが誠実でも、結果が出ないならプロセスを変えなくてはいけない。目的のために手段を選ばないということではなく、「PDCAサイクルを回す」姿勢が身に付いている。そうしたマインドがソーシャルの現場に流れ込むことのインパクトは決して小さくない。

 また、総じて民間企業は行政に比べて意思決定が早く、機動力、展開力、デザイン力に優れ、PRなどのノウハウも蓄積している。

 全てがプラスの方向に影響するとは限らないが、シビアなビジネスマインドという「異文化」が流れ込み、多様性としてうまく統合されれば、それが新たな強みとなることは間違いないだろう。