東日本大震災では、東京も大きな揺れとともに大混乱に陥った。ドコモの場合、東日本の通信状況を遠隔監視し、万一のトラブル時に遠隔制御するネットワークオペレーションセンターが東京・品川にある。今回のような大災害時は、状況の把握とともに、重要通信を確保することが最大の任務となる。ネットワークの安全・安心を陰から支える同センターは、混乱のなかでどのような役割を果たしたのか。

異常を知らせる警報で埋まった
大画面モニター

 3月11日の午後、東京・品川にあるドコモのネットワークオペレーションセンター。ケータイのネットワークの中枢に陣取る数十人のメンバーは、ただならぬ事態に身構えていた。

ドコモエンジニアリング
ネットワークオペレーションセンター
OP運営担当
竹尾 徹氏

「緊急地震速報によって、震源は東北地方であることを確認し、通信規制をかけるための準備に入りましたが、その後このセンターも揺れ始めた。震源が東北なのに、東京でも大きな揺れ。ただごとではないと思いました」

 ネットワークオペレーションセンターで監視業務にあたるドコモエンジニアリングの竹尾徹氏は、東日本大震災当日の模様をこう振り返る。このセンターの役目は東日本エリアの基地局や交換機などの稼働状況を監視し、遠隔操作で不具合などに対処することである。

 ネットワークオペレーションセンターが入っているビルは高い制震構造の耐震性を備えているが、それでも相当の揺れだった。壁面に設置された大画面モニターには、どこの基地局や交換機で故障などが発生しているかといった情報が表示される。そのモニターは、異常を知らせる警報で埋まった。

「地域や震度によって、地震発生直後にどのような対応をすべきかを定めた初動措置マニュアルがあります。それに従って行動しました」と、同じくドコモエンジニアリングの湯浅敏行氏は語る。「基地局の通信規制、災害用伝言板の立ち上げ、総務省への通信状況の報告などを順次実施しました」。被災地の震度など最新情報を注視しながら、一連の緊急対応プロセスが動きだした。

 イスに座っていられないほどの揺れのなかで、竹尾氏は中腰のまま端末に向かい、東北の基地局にコマンドを送り続けた。その内容は、「音声通信量の80%を規制せよ」というものである。それは1秒を争う操作だ。被災地への通信が殺到して設備の能力を超えれば、110番や119番などの緊急通話もつながりにくくなる。

「できることならすべての通信をつなげたい。しかし、通信設備のパフォーマンス低下を避けるために通信規制はやむをえない場合がある。もちろん、通信量の状況を見ながら、できるだけ多くの通話がつながるよう、規制率は時間の経過とともに緩和させています」と説明するのは、ドコモの竹内基晃氏である。

ドコモエンジニアリング
ネットワークオペレーションセンター
OP運営担当
湯浅 敏行氏

 早急にサービスを復旧させるために、ネットワークオペレーションセンターからはさまざまな遠隔措置を行った。たとえば、多くの装置は二重化されているので、故障した装置から予備系に切り替えることでサービスを回復できることもある。

 ただ、津波で被災した基地局などについては、こうした遠隔措置は通用しない。センターから本社の災害対策本部に被害設備のリストが送られ、それに基づいて現地チームによる復旧作業が行われた。

 3月11日の後にも、大きな余震が断続的に繰り返された。そのたびに、ネットワークオペレーションセンターには緊張が走り、メンバーは対応に追われた。竹尾氏や湯浅氏が「通常のオペレーションに戻った」と感じたのは4月後半だという。被災地入りした延べ4,000人体制の復旧活動により、そのころには、ドコモのケータイネットワークはほぼ大震災前の状態に回復させた。

ネットワークオペレーションセンターで東日本の通信状況を表示する大画面モニター。震災当日は、異常を知らせる警報で埋まった。