記録のデータベース化で
資産価値を向上させる
大規模修繕工事は、1回目に比べて2回目は工事項目が一気に増え、3回目ではさらに大掛かりな工事になる。この3回目の大規模修繕工事を成功させるためには、過去の修繕履歴・情報が欠かせない。
最近、明らかになってきた問題が、高経年マンションにおけるこうした修繕履歴データの散逸や竣工図面の劣化だ。日々の補修、修繕から大規模修繕工事などの費用や工事内容、資材などの記録は全て保存してあるはずだが、そうした記録は年々増えてたまっていく一方だ。また、かつての青焼き図面は、経年劣化で見えなくなっていたり破損している場合も少なくない。
川上会長は、修繕委員会がコンサルタントや施工業者を決める際に「竣工図面や修繕履歴を従来の紙(冊子)に加え、デジタルデータで納入してもらうこと」を勧める。紙の記録は劣化するし、膨大な資料の中から知りたい情報を探すのも大変だ。デジタルデータであれば、今後の大規模修繕工事の際の作業が楽になり、保存場所も取らないし、確認も容易だ。
「米国では、建物の履歴がデータベース化されているので、高経年マンションであっても、きちんと修繕されていれば高い価格で売買されている。今後、日本でも中古マンションの流通が増えていけば、きちんと修繕されていることを示す履歴の有無がマンションの資産価値の向上につながるはずだ」と川上会長は語る。
そのため、できれば過去の履歴もデータベース化しておきたい。前回の大規模修繕工事と同じ施工業者を選んだ場合は、データを保有しているはずなので、たとえ費用がかかっても前回と今回のデータを依頼する。最近は、図面や書類のデジタル化を請け負う業者も多い。もっとも、データをデジタル化した後は、住民有志が手作業でデータベース化する必要はあるが……。
築30年を経過したなら「マンションをあと何年持たせるのかという話し合いを住民同士で始めた方がいい」と川上氏は言う。100年持たせるのと、80年を目標とするのでは、3回目の大規模修繕工事の項目や目的が変わってくるからだ。
マンションは社会的資産といえる。老朽化を放置すれば景観が悪くなるし、万が一崩壊するようなことがあれば周辺に甚大な被害を与える。
「地域に対する社会的責任を果たすためにも大規模修繕工事はきちんとすべきだ」
それがマンションの資産価値を維持し、経年マンションに空き家をつくらず、スラム化を防ぐ有効な手だてになる。