―不安要素を払しょくするのは教育ですね。大学入試も大変だった団塊ジュニア世代が今のお母さん世代に当たりますが、詰め込み教育を受けてきました。
鈴木 20世紀後半、日本は大成功しました。工業立国日本の成功の秘密は、お手本となるマニュアルを正確・高速に反復する能力に長けていたことで、ジャパン・アズ・ナンバーワンになりました。
ある意味で非常に不幸なタイミングだったのが、共通1次試験が始まったのも1979年だったこと。私も3期目に受けましたが、ちょうど日本が世界一の工業国家としてピークを迎えたときにこの入試制度をつくってしまった。
ピークは下がる始まり。89年のベルリンの壁崩壊から世界史はガラッと変わり、米ソ冷戦もなくなった。それを機に、デジタルテクノロジー革命が起こり、インターネットも普及していきます。
この1990年代から起きてくるデジタルテクノロジー革命への理解が日本の場合は決定的に欠如していました。限りなく100%に近づくイレブンナインに象徴される生産技術の高さ、不良品率の低さ、歩留まりの良さを日本は目指していた。
一方で、パソコンのOSのインストールは誰がやっても100%できる。お手本をコピーするような仕事は人間の仕事ではなくなるデジタル化の時代が1990年代から訪れていたのに。ここで入試を変えるべきだったが、認識が共有されなかった。
ジャパン・アズ・ナンバーワン
Japan as Number One:Lessons for America
社会学者エズラ・ヴォーゲルの1979年刊のベストセラー。日本の驚異的な経済発展を、終身雇用、年功序列賃金、協調的労働組合、法人資本主義といった諸要因から分析した。
イレブンナイン
eleven nines
99.999999999%と、9が11個並ぶ物質の純度。シリコン単結晶など半導体で要求される製造技術の水準。転じて、日本企業の技術力の高さを象徴的に示すたとえ。
―95年に「ウィンドウズ95」が発売されました。
鈴木 私は当時、通商産業省でIT担当をしていました。ビジネスパーソンはこの流れに乗り、一般の方が意識し出すのは2000年頃からでしょうか。こうした動きが学校の先生方やお母さん方にシェアされず、1980年代の認識のまま30年後の今に至っている。
加えて、2045年に人工知能(AI)が人間の能力を超えるシンギュラリティがセンセーショナルに語られ、すでにその動きは始まっている。先のOECDでの話し合いでも、ロボットで代替できるようなルーティンワーカーは減っていく、一番減るのは日本企業の強みでもあった中間管理職だと。AIにはできない人間が担う仕事とは何かが問われるようになります。
シンギュラリティ
singularity
指数関数的に生産性が伸び続ける結果、人工知能(AI)が人類の知性の集積を超え、人類では想像できないレベルの進歩が続いていく技術的特異点のこと。この概念を唱えた『シンギュラリティは近い』(NHK出版)の著者でGoogleの技術責任者レイ・カーツワイル氏は、2029年には人類と同じ知性を持つAIが現れ、45年にはシンギュラリティを迎えると予測する。